このページの先頭ですサイトメニューここから

このページの本文へ移動

ふれあいネットワーク 社会福祉法人 全国社会福祉協議会

close

サイトメニューここまで

本文ここから

分野別の取り組み

子どもの福祉

小中学校との交流を通じた不登校生への支援
(社会福祉法人 明照保育園:幼保連携型認定こども園/愛知県)

取材時期:2023年6月
取材者:聖隷クリストファー大学 泉谷 朋子 准教授
(全社協・児童福祉施設等による地域の子ども・子育て家庭支援体制の構築に関する検討委員会 委員)

本園の沿革と活動に至る経緯

本園は、第二次世界大戦前、近隣農家の繁忙期に農家の子どもを預かる託児所として開設されました。昭和28(1953)年に保育園となり、「ドナタデモオイデクダサイ」をモットーに掲げ、子どもや保護者を支援してきました。そして、平成27(2015)年に幼保連携型認定こども園となりました。

親の就労に関わらず、すべての子ども・子育て家庭を対象とした保育・教育施設となり、障がい児の受け入れ、放課後児童クラブの運営等も行っています。

地域の小・中学校との交流は約30年前から行っています。

交流を始めた頃、近隣の中学校はいわゆる「荒れている」学校でした。中学校から、「中学3年生の家庭科の授業で保育体験を行いたい、保育園で受け入れてもらえないか」と相談がありました。中学生時代は半分子ども、半分大人の大切な時期にあります。保育者の仕事を知るだけでなく、自分の保育園・幼稚園時代のことを思い出してもらいたい。また、将来親になることを踏まえ、子どもたちに関わってもらいたいと思い、中学生の保育体験受け入れを開始しました。

今では、近隣の高校からもキャリア教育の一環として保育体験を受け入れています。

例年、保育体験に来る生徒のなかに、不登校傾向にある生徒がいます。また、中学校の校長と情報共有するなかで、不登校の生徒が増えているという話を聞きました。

不登校傾向のある生徒が、保育体験ではいきいきと活動している様子を見て、「大丈夫だよ」「あなたにもいいところが沢山あるよ」と伝えたいと考え、平成15(2003)年から不登校生を受け入れるフリースクールを始めました。フリースクールは、放課後児童クラブの活動内で対応しています。

フリースクールの取り組み内容

フリースクールでは、不登校生の居場所を作ることを目的としています。フリースクールを利用している生徒の9割は保育園の卒園生です。卒園生の利用が多いのは、生徒・保護者とも保育園のスタッフと顔見知りで関係ができており、相談しやすいためと思われます。

フリースクールでは、不登校生が保育園を利用している園児たちに関わります。小さな園児たちと関わるなかで「自分も小さい頃はこうだった」と思い出し、園児たちにどのように対応したらいいか考えます。同年代の子どもたちとはうまく関わることができない不登校生徒も、園児たちから見ると何でもできるスーパーお兄さん、お姉さんです。園児たちとの関わりのなかで不登校生が少しずつ自信を取り戻していく姿を見ることができます。

不登校生が保育園の子どもたちと関わるのは、多くの場合、遊びを通してです。遊びは強制されるものではなく、自主性を高め、自分を発揮できるものですので、異年齢の子どもとの遊びを通して不登校生だけでなく、園児たちもたくさんのことを学んでいきます。イヤイヤ期真っ盛りの子たちも、お兄さん・お姉さんが言うことなら聞く子どももいます。親や先生といった関係だけではない、斜めの関係も子どもの成長には必要だと言うことが分かります。

写真:園児たちと関わる生徒たち

写真:園児たちと2人の生徒が座っている様子

近隣の校区には不登校の生徒が利用する教育支援センター(適応指導教室)があります。また市内にも教育支援センターが増えています。

教育支援センターに関わっている校長経験者がフリースクールと教育支援センターが連携できるよう橋渡しをしてくれました。以前の適応指導教室との交流は、年1回程度でしたが、今では月1回程度、教育支援センターに通う生徒が保育園の保育体験・職場体験に来て交流しています。保育園のフリースクールを利用している中学生だけでなく、教育支援センターなどを利用している不登校生にも保育体験を通してサポートしています。

フリースクール運営上の工夫

不登校生の保護者から、「不登校がいつまで続くか見通しが立たないことが不安」と相談を受けたことがあります。また、「学校には言いにくくて・・・」と相談を受けることがあります。

そのような場合、生徒や保護者の了解を得て、学校に生徒や家族の意向を伝えるようにしています。生徒・家族と学校の間の「クッション」となることで、生徒や家族の思いや気持ちを代弁するよう心掛けています。

近隣の小学校にも公立の放課後児童クラブがありますが、本園では放課後子どもたちを預かることが保護者・家族の就労支援につながると考え放課後児童クラブを運営しています。地域の子育て力が低下していると言われますが、放課後児童クラブを運営することで、保育園卒園後も子どもたちの成長を見守ることができます。

放課後児童クラブは地域子ども・子育て支援事業のひとつですので、運営にあたり行政から補助金が出ます。保育園には、時間帯や曜日によって空いている教室があります。空き教室を活用して、子育て支援センター事業や学習支援事業を行い、いろいろな活動を行うための資金を得ています。安定的な経営ができなければ、フリースクールの運営はできません。

職員には採用時に保育園・放課後児童クラブどちらにも勤務する可能性があると提示しています。保育園・放課後児童クラブどちらにも勤務する可能性があるのは大変と思われるかもしれませんが、年度初めには、実施している事業に必要な職員数を確保しています。職員はその日人手が足りていない部門のサポートに入り、保育園、放課後児童クラブ、フリースクール等でさまざまなことを経験します。自主的にお互いにサポートし合うようになり、結果的にノンコンタクトタイムを取れるようになりました。保育者が離職しないための働き方を考えることが管理者には求められていると思います。

フリースクールの成果

学校の成績が優秀でも子どもと上手に遊べない生徒がいる一方、フリースクールを利用している生徒が子どもたちから「遊んで、遊んで!!」とせがまれニコニコしながら活動している様子が見られます。

保育体験を通して不登校生は、支援してもらう側から支援する側に代わっていきます。職員は生徒たちが子どもたちに関わってくれるため、クラス全体を見通して仕事をすることができ、職員・生徒たちの間にWIN-WINの関係が生まれています。

認定こども園、放課後児童クラブ、フリースクール、保育体験等、保育園を利用する子どもたちは異年齢の子どもたちと関わる機会があります。年少の子どもたちは、年上の子どもたちを見て、自分が小学校、中学校に入った後の見通しをもつことができるようになります。

写真:窓のそばで作業する生徒と、その後ろで食事する園児たち

フリースクールを始めてから、不登校生のなかに学習面の課題を抱えている生徒がいることがわかってきました。そこで、元校長先生がボランティアで週2回勉強を教えてくれる無料学習支援を開始しました。また、食事を通して豊かな心・生活・関係づくりが必要と思い、2017(平成29)年から週1回子ども食堂をスタートさせました。

ある先生は、「子ども食堂を紹介するだけでは児童・生徒が自分から行くことはないだろう」と言って、子どもと一緒に複数回子ども食堂に来てくれました。何度か子ども食堂を利用するうちに、子どもの保護者も誘って来てくれました。教師として「気になる子どもにどのように関わったらいいか悩む」と話していた先生が、子ども食堂を活用し、教師としてできることを実感できたと話していました。

また、卒園児の保護者から、不登校の相談を受けることが増えました。卒園児の家族から「知り合いの子が不登校になっているが、フリースクールを利用できないだろうか?」と相談を受けることもあります。

小中学校の先生方は数年で異動されてしまいます。本園では職員の勤続年数の平均が約13年となっており、卒園後も知っている保育者がいるので、子どもや保護者は相談しやすいのかもしれません。

保育園には看護師や臨床心理士もいます。いろいろな専門家と意見交換を行い、保育者はさまざまな視点から子どもを理解するようになりました。

保育園での対応で大変と思うことがあっても、放課後児童クラブやフリースクールで卒園児の成長した姿をみると、小中学校ではそれなりに過ごせていることを知ります。保育者は子どもの将来を見通して就学前の園児にどのような関わりが必要か考えるようになりました。

地域の人などたくさんの人たちが関わってくれることで保育園はとても助かっています。保育園に子育て支援に関わる地域の人、子育て当事者が集まってくるようになり、人とのつながりが増えました。

保育園では、月1回ボードゲームのつどいを開催しています。保育園のスタッフ、フリースクールに来ている不登校生、関係機関の専門家等、さまざまな人が参加し、一緒にボードゲームを楽しんでいます。ボードゲームをしながら大人が子どもの悩みを聞くのではなく、年齢・年代に関わりなくおしゃべりしながらゲームを楽しみ、大人も子どももさまざまなことを学んでいます。

今後の課題

待機児童の問題は解消しつつあります。しかし、この少子化を受け、今後、保育所や認定こども園は淘汰されていくと思われます。

認定こども園を基盤にして、放課後児童クラブ、児童発達支援事業や放課後デイサービスの機能も兼ね備え、地域の子どもや保護者のニーズに対応していきたいと考えています。保育現場が地域の子育て支援の中心になるといいなと考えており、地域に貢献できる多機能型の認定こども園になることをめざしています。保育士、心理職等、保育園にいる専門家の専門性を活かし、さまざまな視点で子どもと保護者の状況を把握し、目の前で起こっていることへの対応を考えるだけでなく、20年後の状況を想像し、今どんな支援が必要なのか考えたいと思っています。

人間の成長にはつながりが必要だと思います。「今はこうだけど、昔はこうだったね」といってくれる人が子どもたちの成長に欠かせません。保育園には〇〇先生がいる、困ったら話に行こうと思ってもらえるように、保育士が働き続けられる環境づくりも検討しなければなりません。

取り組みを検討する他施設等へのメッセージ

支援や事業を展開するためには、行政や社会福祉協議会との連携も不可欠です。フリースクールや子ども食堂を始めたいと行政に相談した時、認定こども園としての事業の枠内で、就学前の子どものみを対象とした事業を行うようにと言われました。

しかし、新型コロナウイルスの影響や不登校生の増加、子どもの貧困問題等、社会状況が変化するなか、行政がフードバンクとの仲立ちをしてくれたり、子ども食堂の運営に協力してくれるようになりました。行政の方針や対応は社会状況に応じて変わっていきますので、やりたいことを伝えておくことが大事です。

周りに伝えることで、行政から声をかけてもらうことや思わぬ所から芽が出ることもあります。

本文ここまで