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ふれあいネットワーク 社会福祉法人 全国社会福祉協議会

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分野別の取り組み

子どもの福祉

地域の子どもを地域で育てる、これぞ児童養護施設の近未来像~片手間でも、付け足しでもない地域支援の本格実施に向けて~
(社会福祉法人 子供の家[児童養護施設] そだちのシェアステーション・つぼみ/東京都)

取材時期:2023年6月
取材者:児童家庭支援センター・児童養護施設一陽 橋本 達昌 統括施設長
(全社協・児童福祉施設等による地域の子ども・子育て家庭支援体制の構築に関する検討委員会 委員)

取り組みの背景

そもそも「そだちのシェアステーション・つぼみ」(以下、「つぼみ」という。)の挑戦的な取り組みの背景には、「家庭が機能しないだけで、なぜ子どもは、住み慣れた地域や親しみのある学校から離れないといけないのか。」「地域の子育て支援施策があまりに不十分な現状は、子どもにとっても保護者にとっても不幸。」「親の責任が重視され過ぎている。むしろ、おたがい様や育ちをシェアするという発想を大切にすべき。」等といった純粋で素朴な(むしろそれが単純明快であるからこそ強烈極まりない)問題意識があります。

さらに、つぼみのホームページの冒頭には、「産んだ親による子育ての責任が強調され、虐待通告が推奨される現在の日本では、親になることを回避する若者が少なくありません。かつて、子どものそだちは全国の地域でシェアされていました。虐待の発見・通告以前に、そだちをシェアするコミュニティを再創生する。子どもを中心に多様な市民が集い、孤立を解消・緩和する。そうした試みを『つぼみ』ではじめています。」と活動のモチベーションが明記されています。

さて元来、児童養護施設には、「愛着障害や発達障害、知的障害などスペシャルなケアを必要とする子どもの養育に関する知識や技術、経験が蓄積されていること」、「24時間365日年中無休であり、常に(援助対象者の)生活そのものを柔軟かつ包括的に支援できる体制が整っていること」、「(児童相談所や市町村子ども家庭総合支援拠点等の行政機関に比べ、)小回りが利き、意思決定が迅速であること」、「臨床心理士、公認心理師、社会福祉士、精神保健福祉士、管理栄養士、保育士、調理師等、多彩な分野の専門職(有資格者)を常時スタッフ化しており、専門的な知見や技術を駆使したケアやサポートが可能であること」等、多くの強みがあります。

児童虐待はもとよりのこと、不登校やひきこもり、子どもの貧困や自殺など、いわば“子どもの生きづらさ”が大きな社会問題となっている現状においては、これらの(すべての児童養護施設が装備しているであろう)組織的な強みを、いかに地域で暮らす子どもやその家族に提供していくかが問われているといえるでしょう。

つぼみは、社会的養護のすそ野を広げるべく、地域支援=地域在宅の子どもやその家庭へのパーマネンシー保障を企図した家族維持・保全的支援=を拡充するためのベースキャンプとして誕生し、その崇高な目標達成のためにスタッフ一同日夜奮闘を続けています。と同時に、つぼみという新たな社会資源は、既成概念としての児童養護施設=施設に入所している児童のみをケアしていれば足りるとする従来の児童養護施設スキーム=を打破するイノベーションの嚆矢になろうとしているといっても過言ではないでしょう。

取り組みの概要

「社会福祉法人子供の家」は、東京都清瀬市において1949(昭和24)年12月より同名の児童養護施設を運営してきましたが、2022(令和4)年4月、「子どもや子育て家庭のエンパワーメントと孤立防止」や「地域住民の主体的参加によるコミュニティの創生」さらには「子どもの主体的地域生活の保障」を目的として、「つぼみ」を新設しました。

同所1階には、地域の子どもたちが過ごすコミュニティスペースが設置されており、放課後児童や不登校児童等の居場所・生活支援・学習支援・食事提供など、いわゆる“第三の居場所”としてフル稼働しています。

また2階には、ショートステイの専用部屋が設けられ、在宅児童の家庭生活を維持・保全するための短期生活支援が行われています。さらに多彩な専門性を有するつぼみのスタッフにより、随時、保護者への養育相談も実施されています。

これらの地域支援にかかる事業運営には、長年にわたる児童養護施設での入所児童支援で培ってきた知見やスキル、ノウハウが存分に生かされているということは言うまでもありません。

外観の写真:昼の、木材を基調とした建物

外観写真:夜の同じ建物。正面の大ガラス越しに、1、2階の様子が見える

なおこの点(=児童養護施設だからこそのストロングポイント=)については、少々古いレポートですが2003(平成15)年4月に全国児童養護施設協議会 制度検討特別委員会が発出した「子どもを未来とするためにー児童養護施設近未来像Ⅱー」の一節を以下に転載して説明に代えます。

「児童養護施設はこれまで家庭における不適切な養育の結果として入所する子どもを受けとめてきた。彼らは何らかの関係性の障害を抱え、他人や自分を傷つけたり、施設内外で器物を損壊したり、万引き等の反社会的行動をとったり、『被虐待児』という言葉が一般化するはるか以前、いわゆる『処遇困難児』といわれた子どものほとんどが、虐待を受けた子どもであった。児童養護施設のように虐待を受けた子どもの処遇に古くから携わってきた施設種別はわずかであり、また思春期の問題に対応してきた施設種別も極めて限られる。児童養護施設はこうした経験とノウハウを活かし、子ども虐待や思春期問題に関わる地域の中核的施設として位置づけられるべきである。要保護問題に対する夜間を含むサービスの提供、あるいは短期・中期の入所サービスの提供といった事態を考えれば、児童養護施設抜きに地域の子育て支援システムを構築することは不可能だからである。」(原文のまま引用)。

取り組みにおける工夫

【自治体との連携状況について】

所在自治体(清瀬市)の子ども家庭支援センターが、特に見守りが必要な児童やその家庭にアプローチし、居場所への登録・来所を促しています。

また清瀬市にとどまらず、近隣の基礎自治体(東久留米市、豊島区)の子どもたちに対してもショートステイ事業を実施しています。

【当事者へのアプローチ】

決して虐待対策の一環(備えや構え)としてではなく、見守りや育ちをシェアするといったスタンスで付き合っています。

【マンパワーの確保について】

常に子どもの権利擁護に向けて新たな地域生活課題を発見し、それを解消・緩和すべく日々進化し続けようとしている「社会福祉法人 子供の家」の組織総体としての活動姿勢(制度施策の改正や改善を求めるソーシャルアクションを含む)が、自ずと人材を呼び集めています。

取り組みによる効果

現在、つぼみが行っている具体的な取組としては、主として以下の3事業があげられます。

地域交流スペース(第三の居場所事業)

【開催曜日】
月曜日から土曜日 
【時間帯】
午前9時から午後8時
【登録数】
26名(2023年7月1日現在)

写真:3人の子どもと3人の大人が折り紙や段ボールで工作

写真:壁一面の本棚と、好きな姿勢で読む二人の子ども

子どもショートステイ(近隣自治体の子育て支援)

【定員】
6名
【利用日数】
1,373日(2022年度 年間実績)

ショートステイユニット

写真:廊下の手前のスペースに、ベランダやテーブル、独立したソファがある

写真:廊下の両側にいくつかの個室がある

子ども食堂(地域家庭とのつながり)

【開催曜日】
毎週金曜日、隔週水曜日
【時間帯】
午後6時から午後8時
【利用者数】
約5,000名(年間延人数)

写真:2つのシンクで調理する子どもと大人の三人

写真:5つの4人掛けテーブルで食べる子どもたち

写真:同じ食事風景を上の2階から見た様子

これらの極めて地域ニーズの高い事業を総合的に展開しているつぼみは、児童養護施設業界において、先駆的かつ前衛的な存在となっており、社会的養護やこども家庭福祉にかかる実務者や研究者等による数多の視察やヒアリングを受け入れています。

なお、つぼみの運営責任者である早川施設長は、「本来は全ての小学校区に、つぼみのような、学童保育の進化形としての子どもの居場所が必要であり、すべての児童養護施設が、その担い手=地域の拠点=になってほしい」との願いを抱いており、(講演会等を通じ、)その啓発に努めています。

今後の展望や課題

つぼみは、自らの基本活動として「清瀬市、東久留米市、豊島区のショートステイ(子育て短期支援事業)」、「放課後児童・不登校児童等の居場所・生活支援・学習支援・食事提供(第三の居場所事業)」、「保護者への養育相談」の3事業を挙げています。そうしてこれらの基本活動を確立したうえで、さらに検討・実施すべき事業を「付帯活動」と位置づけ明示しています。具体的には、「(スタッフやボランティアによる)交流プログラム」、「(プレイリーダーを養成・配置した)プレイパーク」、「(コミュニティソーシャルワーカーを配置しての)訪問活動・機関連携」、「ブランチ運営(地域の子ども食堂・居場所等の取組を醸成・支援)」、「フォスタリング機関(里親のリクルート、研修、マッチング、委託後の支援)」、「人材育成(地域の子ども家庭に関わる人材を関係機関・大学等と協働で養成)」等です。今後の展望や方向性、ビジョンやTODOリストが明確である点も、つぼみの特筆すべき強みに相違ありません。

また早川施設長は、「~子どもの未来をあきらめない~施設で育った子どもの自立支援~」〔明石書店 2015(平成27)年発刊〕において、自立支援とは何かという問いに対し、「自立の前提として子どもの居場所と活き場所を確保する。どんな時にも子どもの存在を否定せず、より適切な表現を共に探る。子どもの可能性と展望を見出し、子ども自身との間や支援者間で共有と具体化を目指す。こうした一連のはたらきかけを、日々の生活に一喜一憂しながらも決してあきらめずに積み重ねていく。(自立支援とは)そうした営みである。」と定義しています。

総じて、つぼみの支援実践は、施設の内外を問わず、つぼみの周辺に佇むすべての子どもたちを対象とした「自立支援」のポピュレーションアプローチであるといえるでしょう。

冒頭に紹介した問題意識を含め、このような多彩かつ壮大な目標を掲げるつぼみの挑戦は、やがては単なる社会的養護施策や子ども家庭福祉政策の拡充といった枠組を超えた成果をあげるのでは…、より踏み込んでいえば、地域住民同士の紐帯を強め、支え合い、助け合いを基盤とする地域共生社会の実現やSDGsに基づいた地域づくり・まちづくりに資することになるのでは…と想望します。

取り組みを検討している施設等へのメッセージ

「既存の児童福祉サービスは、児童のみを対象としてきており、その背後にある親・家庭を直接対象にしていなかったり、提供するサービス内容や方法が単一であったりして、今日の多様化したニーズに対応できないところまで至ってしまっている。そうした観点からみて、児童養護施設のあり方は単に入所児童を家庭に替わって養護するというのみの役割機能では決して十分ではなくなってきている。つまりこれからの養護サービスは、児童はもちろんのこと、親や家庭にサ-ビスをシフトしていかなければ真の問題解決は期待できないところまできている。また、単に問題発生に対応するだけではなく、発生予防に力点を置くようなサービスプログラムも要求されていると考える。このように、現行の施設体系はすでに実態に適応しなくなってきており、新たな養護体系の構築が必要になってきているのである。」今日、上記のレポートに異議を申し立てる社会的養護関係者は皆無でしょう。

しかしながら、この文章を読んで、私は残念でなりません。なぜならば、実はこのレポートは1995(平成7)年2月に全国養護施設協議会 制度検討特別委員会によって発出された「養護施設の近未来像報告書」の抜粋であるからです。率直に言って、このレポートが世に出てから四半世紀が過ぎた今もなお、虐待予防や地域支援事業にあまり取り組めていない児童養護施設は少なくありません。それはつまり(児童養護施設業界全体を俯瞰して述べれば)時代の確実な変化を相応に予測していながらも、プラグマティックな自己改革の道程を回避し真に必要な進化へのチャレンジを怠ってきたということでしょう。

一世代も前の先達によって構想された児童養護施設の近未来像そのものであるつぼみの誕生と今後の躍動が、児童養護施設業界に大きな地殻変動をもたらすことを期待せずにはいられません。

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