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ふれあいネットワーク 社会福祉法人 全国社会福祉協議会

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分野別の取り組み

子どもの福祉

「妊娠期から出産期まで継続した支援」の実現に向けた取り組み~ワンストップ支援を目指して~
(社会福祉法人 善友隣保館附属 善友乳児院/岩手県)

取材時期:2023年7月
取材者:ボ・ドームダイヤモンドルーム 廣瀬 みどり 産前・産後母子支援事業室長
(全社協・児童福祉施設等による地域の子ども・子育て家庭支援体制の構築に関する検討委員会 委員)

取り組みの背景

2009年、DVや若年妊娠、貧困などの困難を抱えて子どもを育てるのが難しく、支援が必要な妊婦が、児童福祉法で「特定妊婦」と明記されました(平成21年 第6条の3第5項)。児童の虐待死で最も多いのが0歳0ケ月と言われており、妊産婦の支援をしていくことは、児童虐待を減らすうえで非常に重要だと考えられています。

現在、乳児院、母子生活支援施設、医療機関、NPO等などが、国や自冶体からの補助を受けて活動しています。今般、乳児院・母子生活支援施設において、支援の充実、高機能化および多機能化に向けた施設整備が推進されています。行政の相談につながりにくい妊婦に対して、SNSや電話を使う相談窓口や、緊急的な住まいを提供して、必要な支援に結びつけるための取り組みが進められているところです。

岩手県では、2019年に19歳の少女、2021年には31歳の女性がそれぞれ出産直後の乳児を遺棄する事件が起きています。特に31歳の女性は、施設に預けたいとインターネットで検索したにも関わらず、預け方がわからなかったといいます。

本事例「にんしんSOS」の母体である善友乳児院のホームページには、預け方や相談先、利用方法を掲載していますが、ひとり悩む女性に情報が届かなければ全く意味をなさない悔しさが残りました。善友乳児院の入所に至ったケースで、望まぬ妊娠で誰にも相談できずに医療機関を受診しないまま出産に至ったケースが過去20年間で全退所児の9%ありました。

そのような状況から、新たな事業として盛岡市と特定妊婦への支援を2年間協議しましたが、個人情報の共有と資金面等の問題で実現することができませんでした。そのため、日本財団からの助成を受けて2022(令和4)年8月「にんしんSOSいわて」を開設し、地域の特定妊婦等の支援活動を行うことにしました。

取り組みの概要

活動目的は、思いがけない妊娠により悩んでいる女性の相談に応じ、安全・安心な出産へつなぐのみでなく、0歳0か月児の虐待死や遺棄を予防し、社会的・経済的問題の解決に向けて、さまざまな社会資源や制度を活用し、母子を迅速かつ確実に支援に結びつけることが挙げられています。対象者は、妊娠にまつわる相談の当事者、周りの相談者(家族・友人・パートナー等)で、思いがけない妊娠、望まない妊娠、知られたくない妊娠で悩んでいる女性を対象としています。

支援内容は、電話とメールによる相談で、電話は、毎週火・金・日曜日の15時から19時、メールは24時間365日受付を行っています。つながった女性の病院や行政の手続きのサポート等の同行支援、関係機関向けの研修会の開催、一時的な居場所の提供(居室支援)などが実践されます。開設から約8か月で、電話31件、メール29件合計60件の相談が寄せられました。年齢層は、10代が28%、20代が23%と若年層が多く、相談内容は妊娠不安の相談が多い傾向です。なかには妊娠検査薬で陽性が出たという学生もおり、親になかなか相談できないという相談もありました。相談者の居住地は、岩手県内が最も多く、次いで青森県からの相談が多くあります。居室支援(住まい提供)と同行支援では、生活困窮し住む場所のない妊婦を対象に、居室支援と病院や行政手続き等の同行支援を行い無事に出産することができました。

実際に活動を進めていくなかで、岩手県には入院助産施設がない、また、妊婦健診初診料への補助等が遅れている等、充分な体制がない現状がみえてきました。特定妊婦等が、安全な環境で安心して出産できるように、今後、より関係機関と連携協働が求められるところです。

取り組みにおける工夫

相談窓口は、妊娠にまつわる相談の当事者、周りの相談者(家族・友人・パートナー等)からの相談を受け付けており、思いがけない妊娠、望まない妊娠、知られたくない妊娠で悩んでいる女性を対象としています。そして、開設場所は、乳児院から近いマンションの2室を賃貸して、事務所と妊婦が利用できる居室1室が用意されていました。居室は、トイレ、風呂、エアコンが完備され、寝心地のよいベッド寝具が用意されており、新生児用ベッドもこれから用意する予定のようで、妊婦が安心して出産を迎えられる居室の準備がされていました。

支援内容は3つの支援があり、妊娠葛藤相談窓口と、病院や行政手続等への同行支援、居場所支援「やどりぎ」が行われています。関係機関向けの研修会も実施を進めているところです。

相談室
写真:ファックスやパソコンが置かれた小さな机と小さなホワイトボードがある部屋

居室
左写真:小さな台所と座卓があるリビング、右写真:テレビや2人掛けの籐椅子、座卓がある部屋

取り組みによる効果

なぜ病院に行かないのか、つながらない女性にどう働きかけるかという点では、事業周知と、発信していくことが重要です。「にんしんSOSいわて」では、広報周知活動と人材養成システムの必要性があげられていました。

広報周知では、地域の理解、行政の理解、利用しやすいサービスやシステムなどを創り出すことが重要であるとして、カードやパンフレットの作成を行い、県内の高等学校や成人式でカードを配布、盛岡市内の薬局にカード設置、さらに行政、関係団体に働きかけ、事業の理解が広範囲に拡がりをみせています。

「取り組みによる効果」

相談者にとって、電話よりメールのほうが気持ちを表現できる傾向がみられています。数回メールでやり取りをすることで、自ら関係機関や、行政へとつながった相談者もいました。相談者は、不安を語ることで、気持ちを分かち合うことができたと感じ、相談員によい反応を示してくれることが多いです。また、その後の結果報告の連絡がない場合が多いですが、追跡で様子を確認することで「相談に乗っていただきありがとうございます」と返信をもらうことがあります。また、カードを手に取り、相談に出向いてくれたこともありました。

「乳児院への影響」

乳児院の職員には、個々の相談者の情報は開示しませんが、毎日の引継ぎや業務日誌、院内研修にて、「にんしんSOSいわて」における相談件数や、居場所「やどりぎ」利用者の様子を知らせる機会を設けて、情報共有できるように努めた結果、理解が深まり、実際に関心を示す職員が増えています。

「地域の理解」

地区の民生委員会議で事業説明をした際に、必要な窓口であることを理解していただき、委員から「困った人がいたら教えてあげたい」という声が聞かれ、カードやパンフレットを追加して配布しました。事業周知と発信することで、昨年に比べて地域全体の関心が高まっていると実感しています。最初は身構えていた関係機関も、関心をもってもらえるようになり、協力を得られるようになっていることは大きな成果です。

今後の展望や課題

盛岡市では、「にんしんSOSいわて」開設前から妊娠相談窓口を設置していましたが、1年で1件の相談でした。「にんしんSOSいわて」は、開設から現在で約100件の相談が寄せられています。匿名、メールで相談できる敷居の低さ、24時間相談できることなどが、現在のニーズにあっているのだと感じています。

そのためにも、相談員は、利用者の居住地にある社会資源、当窓口の関係機関を把握するとともに、相談員が必要とする支援が適切に提供されるように連携ネットワークを構築することが課題です。その課題に向けて、2か月に1回、職員が「全国妊娠SOSネットワーク」とZOOM(ズーム)ミーティングを行い、知識と経験を培い、対応力の向上を図りながら経験を積み重ねているところです。

そして、広報周知することで、ひとりでも多くの思いがけない妊娠により悩んでいる女性に相談窓口があることが届くためにも、広報活動は重要です。

薬剤師会や県助産師会等からも情報を得ることができました。たとえば、薬剤師会から経口避妊薬などの新たな情報が報道されることで、詳しい情報の提供がされます。

さらに、さまざまな機関とつながることで、思春期研修会やプラットホームから相談業務を活かすことができる会議や研修会への情報提供されることで参加でき、一緒に知識向上が図られます。

そのようなことから、さらに広報周知することが、事業展開するうえで、大変重要であると捉えています。

また、岩手県の母子生活支援施設は、設置主体は盛岡市で1か所定員30世帯で運営されていますが、老朽化と暫定定員で厳しい状況です。複雑な背景を抱える母子の生活を継続して切れ目なく支援を進め子どもの成長を支える体制には、一体的に取り組むワンストップ支援が重要であり、今後の課題であると捉えています。

取り組みを検討している施設等へのメッセージ

望まない妊娠は、妊娠だけの問題ではなく、その背景には、孤立や社会的排除という社会の問題を抱えています。制度の狭間、複雑な背景を抱える当事者を支えるには、地域における社会資源を活用しながら、各関係者間がタッグを組み、より強力な連携が必要です。“安心安全な出産に導き、さらにその母子の生活がどうすれば安定するのか”という共通の目的に向かって、それぞれの機関の強みや役割を最大限に活かしながら、まずは、それぞれの地域の現状を把握し、地域性を活かした支え合いのかたちを検討していくことが大切です。大事なことは、各機関がチームとして協働して進めるネットワークづくりが必要であるということです。社会的養護を担う乳児院と母子生活支援施設は、専門性の蓄積があります。それを生かすためにも連携して、支援の質を高めていく機会があればと思います。ともに高め合い、相互理解と情報共有できる機会は、取り組みの充実・強化に向けるものになると期待しています。

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