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ふれあいネットワーク 社会福祉法人 全国社会福祉協議会

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分野別の取り組み

子どもの福祉

施設種別を超えた重なり合う支援が地域の新たなセーフティネットを創出する~産前産後の切れ目のない支援の実践例~
(社会福祉法人 大念仏寺社会事業団 ボ・ドーム ダイヤモンドルーム:産前産後母子支援事業/大阪府)

取材時期:2023年7月
取材者:善友乳児院 松尾 みさき 施設長
(全社協・児童福祉施設等による地域の子ども・子育て家庭支援体制の構築に関する検討委員会 委員)

取り組みの背景

大阪市は、2018(平成30)年度に大阪市児童虐待防止対策強化会議において虐待死亡事例(心中以外)の2割を占める0日児問題(望まない妊娠をした妊婦が、周囲に知られたくないという思いから、医療機関、行政機関に相談できないまま出産し、出産直後に実子を遺棄すること)に対して、児童虐待防止対策の新規事業として、産前産後母子支援事業を開始しました。

大阪市平野区にある、社会的養護の理念を基盤とする社会福祉法人大念仏時社会事業団は、乳児院、母子生活支援施設、自立援助ホーム(女子)、保育所を含めた児童福祉施設を複合的に有し、地域を基盤とした実践を紡いできた歴史があります。2020(令和2)年10月から産前産後母子支援事業に基づく活動を開始しました。

望まない妊娠は、問題が重篤になる前の個別の予防的支援が子どもの貧困・虐待の連鎖予防とつながり、権利擁護・子どもの最善の利益になる、と一体的に捉えることで、より効果的で相乗実践になると考えています。ダイヤモンドルームの実践は、安心・安全な出産に導き、さらに、母子のライフステージに寄り添う、地域性を活かした支え合いのかたちを検討する、この考え方を意識しています。

ダイヤモンドルームのめざすところは、居場所と自立を兼ね揃えた産前産後母子支援です。困ったときのSOSをキャッチし、孤立を解消するということをめざしています。ダイヤモンドルームの相談の約40%が関係機関からの相談であり、地区担当保健師が、支援の必要性のある妊産婦を把握されています。ダイヤモンドルームは特定妊婦等の対応に欠かせない存在になっており、その切れ目のない支援の提供には、重なり合う支援、柔軟な制度運用が不可欠です。

取り組みの概要

本事業団の位置する大阪市の平野区は、大阪24区の中で、一番大きく、人口も多いところです。特徴として、神社、仏閣が多く、歴史が深い地域です。

事業団の特徴は、ひとつの建物の中に母子生活支援施設、乳児院、自立援助ホーム等を有し、地域を基盤とした実践を紡いできた実績があります。その恵まれた環境を活かす支援として、ひとつめは、マンパワーが確保されるということで、たとえば、夜間の対応体制では、37週目から、乳児院、母子生活支援施設職員が担う体制がとられています。開設当初は、都度の振り返りや情報の追加で修正を重ねていきました。現在では、乳児院の夜勤体制の増員が配置され、母子生活支援施設では、助産師による勉強会が開催され、また、ダイヤモンドルームスタッフも、臨機応変に夜間対応を行うなど、施設全体で安全な出産に取り組み、無事に出産されて「よかったね」と喜びを分かち合うときが、種別を超えて気持ちが通じ合う瞬間です。

もうひとつ、複合施設を活かした支援は、困難な母子の親子関係再統合支援です。退所後に、母子生活支援施設に移っても、支援者との関係が切れるわけでもなく、同じ建物の中に、産前産後と、乳児院、母子生活支援施設で、重なり合う支援が実践できます。いざというときに頼れる人がいる、話せる場所とマンパワーが拡がる環境は、母子にとっての安全基地になり、さまざまな課題を抱えながらも、子どもと生活することに基盤を置く支援を展開に生かせます。この実践支援には、柔軟な制度運用や、児童相談所、市町村窓口、病院等、チームで取り組む意識が求められるところです。

事業開始から2年半、相談からアウトリーチ、住まいの提供を合わせて30名が無事出産されました。このことはニーズの高さを裏付けています。また、相談実数は411件になります。これは、実際に妊婦と伴走するなかで、つながる働きかけと、ライフステージに沿った制度が利用できれば、助かる命があるということです。たとえば、大阪市の「妊娠判定のための初回受診料無料」の制度を活用して、地区担当保健師と一緒に5名を受診同行し医療につなげることができました。言い換えると、制度がなければ助けられないともいえます。

リーフレット
ダイヤモンドルームとは?妊娠から出産、その後の生活を一緒に考えます。

取り組みにおける工夫

令和4年6月からLINE自動応答開設や、令和5年度は、ホームページリニューアル、インスタグラム開設などを進めています。

相談者の年齢は、10代25%、20代27%と高く、10代の相談者は、「妊娠したかもしれない」という妊娠不安が多く、性教育の必要性が示唆されます。40代相談者からは、単なる「思いがけない妊娠」ではなく、パートナーとの力関係の不和、被DVの可能性も踏まえて相談を受けています。13名の相談者が、相談から、アウトリーチで役所、医療機関、NPO団体などの連携協働につながりました。

母子手帳の未発行および妊産婦未受診など、女性だけの問題のように扱われますが、男性が責任を回避して逃げてしまうことが多いです。そのベースに、SNSで簡単につながって切れるなど希薄な人間関係がみられます。

このような女性をどうサポートするかは課題であり、ダイヤモンドルームでは、若年妊娠など複雑な事情を抱えた特定妊婦等の住まいの提供の①実家的な機能、②生活を支援する、③居場所になる、この3つを重視して取り組んでいます。利用期間は産前産後約3か月で、2室の専用室を利用、利用料は無料です。

妊娠に至るまでの背景は過酷なもので、先が見えない不安と恐怖を抱える時期だからこそ、「人が変わるチャンス」になる可能性がある姿がみられます。実家のように振り回されながら、一緒に考えていくことで、なじみになりつながり、絆が生まれてきます。制度だけでは埋まることのない孤立感、そのようなつながりが目には見えませんが、生まれる命をどう支えるかチームで振り返る日々です。

写真:和室で、手元に抱える乳児の顔を覗き込む女性

ダイヤモンドルームから母子生活支援施設への入所率は約50%です。一旦、公的支援を継続することが、重篤になる前の予防効果があると実感しています。母子生活支援施設を利用されるので、連携協働は欠かせません。ただ、老朽化した施設設備は選択されにくい現状があり出口に困る場合があります。切れ目のない支援として、母子生活支援施設の環境整備が図られることを願っています。

【要保護児童対策協議会個別ケース会議の重要性】

特定妊婦等への支援で強調すべきは、要保護児童対策協議会個別ケース会議の開催です。成育歴や生活歴が、その人のすべてではありません。今の姿も踏まえることや、妊婦の意向は、支援に必要な情報になります。母子を支える支援をどう組むことができるか、親の思いと支援の間に食い違いがないか、柔軟な制度利用を検討できないか、現在のニーズと、今後の支援に向けてチームとして何ができるかを検討する個別ケース会議の開催が必要です。

取り組みによる効果

【親を支える】

特定妊婦等を支えるためには、親を支援する意義は大きいです。利用者理解を深めるアセスメントと、パートナーシップの連携協働・介入と支援、切れ目のない支援は、リスク評価だけでなく、日々の日常生活の姿から、肯定的な評価を見る視点、支援者が、妊産婦の優しさや、努力される姿などをキャッチして言語化共有することが、重なり合う連携の実現に向かうことになります。授乳の仕方が下手でも、恐る恐る沐浴を行う姿でも、助かった、助けてもらったの関係ではなく、自分でできたという喜びや達成感がもてるような働きかけによって、少し心の余裕が生まれて子どもに向き合う親の顔になるのです。赤ちゃん誕生の写真がLINEで届けられ、「よく頑張ったね」と喜びを分かち合うとき、親を支えることの大切さを実感します。

また、出産後に利用者とその実親との関係が改善することが多く、親子関係の調整をすることでよい方向に向かう場合もあります。親は、経済的な支援は無理でも娘の子育ての手伝いはしてあげたいと言われ、母子は、親の近くに住居を構えられ、福祉サービスを利用することは、これも重なり合う支援といえます。また、母子生活支援施設で暮らしながら、週末里帰りして、親に子育てを助けてもらい、親子のやり直しをされる母子もいます。「子どもがつなげる」二代に渡る親子支援、児童虐待の予防、孤立解消に取り組むひとつと考えています。

【社会全体で子育てする社会】

連絡に使いやすいLINEの送受信回数は合計21,107回あり、特にアフターケアでは、子どもの写真や動画の共有、何気ないやり取りが、母子の様子を知るきっかけとなり、SOSをキャッチすることもあります。食料支援のSOSが入ったときには、食料品を持って訪問に行きます。このように「さりげなく手を差し伸べる」。このようなことで、母子の応援団が増えていくのです。また、最近は、障害関係団体と情報共有する機会が増えてきました。

【研修会・シンポジウム】

母子のセーフティネットの役割を果たせるように、大学教員のスーパーバイザーによる事例研修や、多様な機関と意思疎通を図るシンポジウムを開催するなど、研鑽を重ねているところです。令和5年11月に開催される日本子ども虐待防止学会におけるシンポジウムに、「特定妊婦支援における連携協働」をテーマにした発表を行います。

多職種・機関が、それぞれの役割を果たすうえで、横につながる連携協働と、利用者理解を深めるアセスメントの意義を確認していきたいと考えています。

今後の展望や課題

ダイヤモンドルームの取り組みは、これまでの措置を基本とした社会的養護の枠と枠をつなぐ新たな取り組みであり、地域のなかで切れ目のない支援を実践することで出口を広げることにもつながっています。施設等の種別にこだわらない複合的な支援に、今後の活躍が期待されるところです。

新たなネットワークは、多様な支援主体によるチームを形成し、そこには共通の目的に向けてそれぞれの専門性と役割を認識しながら課題を整理していくチームとしての連携が求められています。

一方で、措置の枠を超えているため、自ら周知活動をしなければ支援を要する当事者に届かないという課題があり、継続した周知活動が必要ですが、現在、自治体による委託費のなかには広報活動費が含まれていないため、今後の大きな課題となっています。

また、支援内容が充実するにつれてマンパワーが不足しており、6人目の専属職員の確保も検討すべき課題です。

取り組みを検討している施設等へのメッセージ

地域における社会資源を活用しながら、当事者を支援していくためには、関係者間の相互理解と情報共有が必須となります。“安心安全な出産に導き、さらにその母子の生活がどうすれば安定するのか”という共通の目的に向かって、人に着目した支援をそれぞれの機関の強みや役割を最大限に活かしながらチームとして協働して進めること、そしてそこがぶれないネットワークづくりが大切です。まずは、それぞれの地域の現状を把握しながら、地域性を活かした支え合いのかたちを検討していくことが大切です。

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