このページの先頭ですサイトメニューここから

このページの本文へ移動

ふれあいネットワーク 社会福祉法人 全国社会福祉協議会

close

サイトメニューここまで

本文ここから

分野別の取り組み

子どもの福祉

ふれんどさん訪問事業
(NPO法人 市民サポートセンター日野/東京都)

取材時期:2023年6月
取材者:大田区社会福祉協議会おおた地域共生ボランティアセンター 高木 仁根 センター長
(全社協・児童福祉施設等による地域の子ども・子育て家庭支援体制の構築に関する検討委員会 委員)

はじめに

NPO法人 市民サポートセンター日野(以下、「当法人」という。)が自主事業として取り組む「ふれんどさん訪問事業」は、2011年10月に、ふれんどさん養成講座を開設し始まった。無償の子育てボランティアである「ふれんどさん」が、妊産婦、0歳から2歳の子をもつママが日中在宅する家庭を、2回から5回の期間限定で訪問し、育児・家事をお手伝いしながら子育てを応援する事業である。1回2時間程度の訪問であり、一緒に親子ひろばや公園に出かけたりもする。

ふれんどさん

写真:おもちゃの携帯電話を耳にあてる女児を見守る、オレンジ色のエプロンの女性

膝の上に乳児を立たせてあやすオレンジ色のエプロンの女性と、見守る女性

取り組みの背景・動機

当法人の前身は、1991年に市の関与のもとに設立された「日野市女性社会事業協会」である。この日野市女性社会事業協会は、先駆的な市民提案による市独自の助けあい制度の実施を目的としていた。

その後、2003年にファミリー・サポートセンターの受け皿として当法人が設立され、日野市女性社会事業協会の趣旨を同法人に移行し、2004年から日野市の委託事業として業務を開始した。その際、日野市が国のファミリー・サポートセンター保育支援事業に加えて、1991年から取り組んでいた保育支援を除いた活動を、市の自主事業であった「ファミリー・サポートセンター家事支援事業」として引継ぎ、子育て世帯の家事支援、妊産婦支援および高齢者支援も実施できるようにした。これを契機に、国のファミリー・サポートセンター事業は、提供会員を基盤としながら、まさにNPO法人の先駆性・迅速性・専門性・柔軟性といった特性を存分に発揮し、市からの受託事業または当法人の自主事業として、多岐の子育て関連事業へと独自の新しい展開をみることになった。ふれんどさん訪問事業は、そのような事業のひとつである。

従来の妊産婦や高齢者のいる家庭への訪問事業、ファミリー・サポートセンター事業の取り組みを通じて、子育て世帯の課題がみえてきた。そして、ファミリー・サポートセンターのベテラン提供会員からの声かけがあり、ファミリー・サポートセンター事業では対応しきれない支援を利用者に寄り添いながら一緒にできる仕組みはないかを検討し、当法人の自主事業として、提供会員に対する養成講座からスタートした。

取り組みの概要

ふれんどさん訪問事業の目的は、地域の子育て力を育み、市民による子育ての輪を広げていくことである。また、本事業はファミリー・サポートセンター事業の新たな展開として、日野市内の子育て家庭を訪問し、悩み相談や心理支援も含みつつ、「ふれんどさん」とともに沐浴・掃除・洗濯・調理等の家事、親子ひろばや公園にでかけたり、子育てを一緒に行うことで、ママが家庭の中で孤立しないように支援する訪問型事業である。

「ふれんどさん」として活動するには、当法人主催の「ふれんどさん養成講座」とファミリー・サポートセンターの「保育講習会」を修了することが必要である。

また、ファミリー・サポートセンターのアドバイザーかつ当法人の事務局員、または事務局が指定するベテランの「ふれんどさん」がコーディネーターを担っている。そしてコーディネーターが、まずアセスメントのための訪問を行う。その後「ふれんどさん」と同行訪問を実施し、訪問計画書を作成する。コーディネーターは、「ふれんどさん」と緊密に連携することが期待されている。また、「ふれんどさん会議」を定期的に開催し(年2回)、情報交換や連絡・相談、訪問活動の評価、フォローアップ講座の企画・開催もコーディネーターの役割である。このような取り組みによって、「ふれんどさん」の力量の維持・向上、気持ちのリフレッシュやモチベーションの維持に努めている。

「ふれんどさん」は無償のボランティアだが、交通費相当分が支払われることになっている。事業開始にあたり難しかった点は、家事支援などで家庭に入ることは負担感が大きいこともあり、有償から無償のボランティアへ移行したことで気持ちの切り替えが大変だったとのことである。「ふれんどさん」による訪問は、「ふれんどさん」への依存を避ける意味もあり、最大6回まで、そのうち初回はコーディネートのための訪問である。

「ふれんどさん」は、訪問後に報告書を提出する。また利用者は、終了後アンケートに回答し、事業効果を測定している。

利用者へのアンケートでは、「ふれんどさん」の訪問は、「楽しい体験だった」、「気持ちが楽になった」との回答が多数である。また、「子どもふたりと遊んでもらったことで自分の心に余裕がもてたし、子どもも楽しそうだった。話を聴いてもらってストレスがなくなった」、「はじめは自分にあまり気力がなく何を一緒にしてもらえば楽になるのかわからなかった。離乳食の作り方、野菜のとらせ方に悩んでいて相談したときは、本を貸してくださったり食事方法や生活リズムのつけ方までアドバイスをもらえありがたかった」、「自分ですべてを抱え込む状況に、少しでも助けてくださる方がいるんだと思えることで救われた」等の声が寄せられた。また、自身の変化や子どもの変化も多くの利用者が感じており、「ストレスが減り、子どもとの遊びが楽しくなった」、「つらいときには他人の助けを借りてもいいんだと思えた」、「子どもがぐずったときも、まず子どもの気持ちをくみとることが大切と思えた」、「ふれんどさん、いつ来るのと子どもが聞いてくる」、「子どもの笑顔が増えた」、「自分の気持ちが安定したことで子どもの気持ちも安定した」等々、さらに「ふれんどさんから聞いたアドバイスで、夫も耳を傾けてくれるようになった」と家族の変化を知らせてくれる声も寄せられている。

利用対象は、①子育てに不安や悩みをもっており、ふれんどさん訪問を希望される家庭、②市の保健師や子ども家庭支援センターからの紹介、③市立保育園の地域交流広場での依頼、④その他の経路から要請があり、当法人が利用を認める家庭、である。

募集方法は、申込用紙が付いたチラシを、市内の子育て施設、保健師の赤ちゃん訪問時、市の3、4か月健診時、市立保育園による地域支援子育て広場訪問時に配布している。

利用状況については、2回の養成講座を経て、20世帯ほどの利用者であったが、その後支援メニューの多様化等により現在5世帯まで減少している。利用の減少は、申込書を事務局へ直接持ち込みか郵送提出にしていることがネックになっているかもしれない。パンフレットにQRコードを付けて申し込みできるようにしたり工夫が必要と考えている。

さらに、ベテラン提供会員が中心の「ふれんどさん」は、各種イベント開催時に参加者のお子さんを預かる「ふれんどさん保育室」など、他の活動にも取り組みを広げている。市内のさまざまなイベントに参加するママたちが悩むのは、「子どもを連れて行っていいのかしら・・・誰か預かってくれるといいけど・・・」ということである。そこで、乳児や幼児をもつ保護者の社会参加を促進するための取り組みとして、「ふれんどさん保育室」が始められた。社会参加のため、子どもを預けることはママの心の自立を促す。また、「ふれんどさん」は子どもの多面性を引き出し、子どもの様子をママに伝えることでママの気持ちにひとときの風を通し、子どもへの理解を深め、母子関係を豊かなものにしていく。「ふれんどさん保育室」は、単に便利な預け場所というだけではなく、ママのライフスタイルにも好影響をもたらしている。

また、当法人は、2013年度に「おかずクラブ」を自主事業として立ち上げた。この事業は、日野の若いママたちに、日野で育てられた野菜を知ってもらい、日野の野菜を使って子育てしてほしいという思いから始められた。そのため、ママが子どもたちに食べてもらえるレシピを考え、実際に調理して、みんなでいただきながら交流するという取り組みである。ここでも、「おかずクラブ・日野菜(ひのさい)キッチン」開催時の日野菜ママの子どもの保育を、「ふれんどさん保育室」において「ふれんどさん」が担っている。

ふれんどさん保育室

畳の部屋で、おもちゃで遊ぶ女児と、別の子に絵本を見せるエプロンの女性

前の写真と同じ様子の部屋の手前の部屋の、同じエプロンの2人の女性と3人の幼児

今後の課題

ふれんどさん訪問事業の利用世帯は減少しているため、今後増加させていきたいと考えている。また、「ふれんどさん保育室」や「日野菜ママ」の活動との連携による相乗効果として、ふれんどさん訪問終了後も「ふれんどさん」とママたちがつながり続け、赤ちゃんの成長を見守ることができるようになることが期待される。

初めはちょっとしたお手伝いのつもりで行ってみると、ママたちの悩みや家庭の課題がみえてくる。場合によっては、ファミリー・サポートも含め、「第3の居場所」を紹介することも必要になってくる。つなげてあげて、ママがひとりで生きていく力をつけていくことも視野に入れている。事務局には、相談に来られたら簡単に「要件に合わない」といって断らないでとお願いしているという。必ず何かしらの課題があり、それを見抜く力をもったコーディネーターを養成することも大切なカギとなると考えている。

取材を終えて

筆者が勤務する社会福祉協議会においても、無償の地域ボランティアによる子育て世帯に対する訪問型の見守り事業に取り組んでいる。0歳児のいる世帯を対象にした子育て用品を持参する事業と、0歳から18歳の子どものいる世帯を対象にした食品を持参する事業では、玄関先での15分程度を目安にした挨拶や近況等の簡単な会話を基本とするなど、地域の方々でも取り組みやすい事業としている。その活動を通して、早期に家庭の課題を発見し、地域ボランティアと社会福祉協議会、そして行政との連携を深めることで予防的支援につなげるとともに、支えあいの地域づくりをめざしている。

一方、ふれんどさん訪問事業は、1回あたりの訪問時間が2時間と長く、家事支援や外出同行など、活動の幅が広い。無償の地域ボランティアに、このような濃密な活動がどのようにして可能となるのだろうかと疑問をもったことが、ふれんどさん訪問事業の取材動機である。このような取り組みが日野市において成立し得た背景となる特性と実践の特徴を3点ほどあげてみたい。

第一に、当法人が長年取り組んできたファミリー・サポートセンター事業をベースとしていることが大きい。そのなかで提供会員の方々が経験と研鑽を積み、それぞれの家庭の課題を把握する感性と力量を身につけていったことである。また、地域ボランティアとはいえ、「ふれんどさん」の活動にはそれなりの知識と心がまえが必要と思われる。「ふれんどさん養成講座」では、7日間程度にわたる座学・実習から構成され、市の保健師や児童相談所職員等の専門職からも講師を迎えるなど、一定の専門性を確保できる内容となっている。これも、ファミリー・サポートセンターの提供会員としての基盤があるからこそ可能になるのだろう。

第二に、ベテランの提供会員の把握した課題を当法人事務局が受けとめ、既存の取り組みではカバーできない狭間の課題に対応する仕組みづくりにつなげていくことができたことである。

第三に、養成された「ふれんどさん」は、訪問事業のみならず「ふれんどさん保育室」や「日野菜ママ」といったさらなる事業へと展開され、地域でのつながりを一層広く育てていることである。

これらの視点からみると、長い時間をかけた「ふれんどさん」をめぐる一連の取り組みは、ファミリー・サポートセンターの提供会員と「ふれんどさん」の経験、そして専門性の高い当法人スタッフとの連携を基盤としていることがわかる。「ふれんどさん養成講座」にしても、当法人スタッフの子育て世帯の生活課題への鋭敏な感受性と専門性があってはじめて企画・実行が可能な講座であると感じた。

有償ないし専門的「サービス」は、場合によっては子育て世帯を「消費者」の立場におき、地域のご近所さんとしての人間関係をかえって弱めてしまうことがあるかもしれない。一方、無償の地域ボランティアである「ふれんどさん」の取り組みは、「サービス」という言葉では言い尽くせない活動であり、弱体化した地域の人間関係を紡ぎなおす大きな可能性を秘めている。そのことは、「わたくしたち『ふれんどさん』が友だち第1号になりますよ」(「ふれんどさん訪問事業」チラシより)というメッセージに象徴されているように思えた。今後の本事業の展開に引きつづき注目していきたい。

本文ここまで