障害者の高齢化に関する課題検討報告 平成27年5月 障害関係団体連絡協議会 障害者の高齢化に関する課題検討委員会 障害者の高齢化に関する課題検討報告にあたって 全社協・障害関係団体連絡協議会では、これまで障害当事者の視点から、日々の地域生活のなかで抱える課題や、障害福祉施策に関する現実的な課題をもとに、安心・安全な地域生活の実現のために必要な検討を行ってきた。具体的には障害者の所得保障(平成18〜19年)や裁判員制度への参画(平成20年)、消費者被害の防止(平成21年)、地域生活支援(平成22〜23年)、さらには、災害時の障害者避難のあり方等(平成24〜25年)について研究を重ねてきたところである。   平成25年に障害者総合支援法が施行されるにあたり、その附則には施行3年後を目途とした見直し規定が設けられ、高齢の障害者に関する検討がなされることになっている。これを受けて、平成26年12月より社会保障審議会障害者部会のもと、厚生労働省障害保健福祉部長が設置した「障害福祉サービスの在り方等に関する論点整理のためのワーキンググループ」において、論点がとりまとめられたところである。これを参考に、今後は社会保障審議会障害者部会において具体的な見直し検討が本格的に進められていくところである。   この本格議論に先立ち、障害当事者とその家族等を中心とする団体から構成される本会は、よりよい見直しと関係施策が構築されることをめざし、平成26年度に「障害者の高齢化に関する課題検討委員会」(委員長は石橋吉章氏)を立ち上げた。その検討目的は次のとおり。 「近年、わが国全体の高齢化に伴い、障害のある高齢者数も増加しているなか、壮年期・高齢期を迎え、親亡き後を見据えた障害者の生活のあり方が課題となっている。たとえば、福祉サービスを利用しても独居生活を持続しにくい、家族介護者が要介護となり、負担が増えたための暮らしの困難さ、個別支援ニーズの増大、施設等での集団生活の難しさなどが挙げられる。また、個人のライフスタイルに合った「その人らしい暮らし」の実現をめざすなかで、高齢の障害者や高齢となる障害者について、所得保障、住まい、社会参加や地域との関係、さらには介護保険制度と障害者福祉施策との関係からくるサービスの利用継続に関する課題等がある。 そこで、本検討委員会では高齢の障害者や高齢の親をもつ障害者等の現状と、さらに日々の生活において直面する課題等について明らかにし整理し・共有する。」 こうした目的意識のもと、同検討委員会として1年以上にわたり、障害者の高齢化に伴う現状と課題等について検討を重ねてきた。 検討内容を、(1)所得保障、(2)住まい、(3)地域社会との関わり(社会参加)、(4)利用する福祉サービス、(5)本人や家族の状況の変化、(6)その他、の6分野に大別し、本会を構成する団体のうち14団体からレポートを得て課題を整理し、共通する意見や要望、ならびにそれぞれの障害特性に配慮してどのような施策、体制づくりやサービスが個別に必要かとの視点からあるべき対応等を集約した。 なかでも介護保険制度と障害福祉サービスとの関係については、厚生労働省より平成27年2月18日に事務連絡通知「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく自立支援給付と介護保険制度の適用関係等に係る留意事項等について」が示された。今後は、自治体による格差を生じさせることなく障害者の高齢化に対応する適切な支援やサービスが提供されるよう、その一層の実現に向けて関係者が必要な改善を促していく必要がある。 本会は今後、社会保障審議会障害者部会ならびに厚生労働省担当部局に対し本報告書により必要な意見を提出することとしている。 本報告書が、さらに全国各地の自治体や関係団体に共有され、今後の障害者の高齢化に伴い生じる生活課題の改善に活かされることを期待するものである。 平成27年5月 全国社会福祉協議会 障害関係団体連絡協議会 障害者の高齢化に関する課題検討委員会 Tわが国における障害者の高齢化に関する現状 1.はじめに 現在、わが国における障害者福祉は、障害者の高齢化ならびに高齢期を迎えた障害者への支援、サービスの在り方について制度上、多くの課題を抱えている。 平成15年に「支援費制度」が施行され、「措置」から「契約」に替わるとともに自己決定や利用者本位の理念を踏まえる制度上の大きな転換期となり、平成18年には「障害者自立支援法」が施行され、サービスの3障害(身体障害・知的障害・精神障害)の一元化や、応益負担方式による利用料の定率負担や「障害程度区分」が導入された。そして、平成24年には、「障害者総合支援法」が制定され、障害者の定義に難病等が追加される等、障害のある方の自立支援、社会参加に向けて施策が総合的に進められてきた。 これらの施策動向のなか、「障害者総合支援法案」の検討過程のなかで議論が尽くせず、法施行3年後に行う見直し検討規定として、「高齢の障害者に関する事項」が設けられていたところである。本書はこの見直しに資するため、障害当事者とその家族等を中心とする障害関係団体連絡協議会を構成する各団体からの意見を集約した。 2.わが国の障害者の高齢化に関する現状 1)障害者数とその高齢化 わが国における高齢化については、2007年(平成19年)に65歳以上の高齢者人口が総人口の21.5%に達し、「超高齢社会」に突入した。さらに、2025年には総人口の18.1%、およそ5人に1人が75歳以上の高齢者となる「2025年問題」が到来する推計値となっている。障害者数も増加傾向にあるなか、その高齢化も顕著に進んでいる状況を以下でふれる。 障害者の総数は、厚生労働省調査によると2011年には787.9万人(人口の約6.2%)であり、そのうち50%は65歳以上に達しているとの報告がある。   障害者数(推計) 身体障害児・者 総数366.3万人 在宅者 357.6万人 施設入所者 8.7万人 知的障害児・者 総数 54.7万人 在宅者 41.9万人 施設入所者 12.8万人 精神障害者 総数 320.1万人 在宅者 (外来患者)287.8万人 施設入所者 (入院患者)32.3万人 ※精神障害者の数は、ICD10(国際疾病分類第10版)の「V精神及び行動の障害」から精神遅滞を除いた数に、てんかんとアルツハイマーの数を加えた患者数に対応している。 ※身体障害児・者の施設入所者数には、高齢者関係施設入所者は含まれていない。 以下の資料を参考に作成 「身体障害者数について」 在宅者:厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(平成18年) 施設入所者: 厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成18年)等 「知的障害者数について」 在宅者: 厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成17年) 施設入所者: 厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成17年) 「精神障害者数について」 外来患者:厚生労働省「患者調査」(平成23年)より厚生労働省で作成 入院患者:厚生労働省「患者調査」(平成23年)より厚生労働省で作成 [図表については掲載略]   @在宅における身体障害者数 平成25年版障害者白書(以下、白書)によると「在宅の身体障害者357.6万人の年齢階層別の内訳を見ると、65歳以上221.1万人(61.8%)であり、70歳以上に限っても177.5万人(49.6%)」となっている。 なお、昭和45年には65歳以上の割合は31.4%であり、当時より倍増している状況にあるうえ、18〜64歳の割合が現在とは逆転している。 さらに、同白書では、わが国の高齢化率は調査時点の平成18年には20.8%であることから、「身体障害者ではその3倍以上も高齢化が進んでいる状況にある」とされ、「人口の高齢化により身体障害者数は今後も更に増加していくことが予想される」としている。 [図表については掲載略] A在宅における知的障害者数 同白書によると「在宅の知的障害者41.9万人(平成17年)の年齢階層別の内訳を見ると、65歳以上1.5万人(3.7%)」となっている。 また、「65歳以上の割合の推移を見ると、平成7年から平成17年までの10年で2.6%から3.7%へ増加している」とある。 [図表については掲載略] B外来の精神障害者数 同白書によると「外来の精神障害者287.8万人の年齢階層別の内訳を見ると、65歳以上97.4万人(33.8%)」となっている。 さらに、外来の精神障害者の「65歳以上の割合の推移を見ると、平成17年から平成23年までの6年間で、65歳以上の割合は28.6%から33.8%へと上昇している」とある。 前述のとおり、障害者の高齢化については割合の数値が高まっている。一方で、障害者の高齢化に伴い利用できる福祉サービスについては、介護保険制度と障害者総合支援法によるサービスに大別されるなか、利用者のニーズや状態、意向に応じたサービス利用につながっていない状況にあることが関係者等から多く指摘されている。 [図表については掲載略] 2)介護保険法と障害者総合支援法との関係 @介護保険サービスと障害者総合支援法による障害福祉関係サービスの利用者数 介護保険サービスの利用者は平成23年度で434万人、11年間で約2.4倍となっており、居宅・地域密着型・施設の各サービスともに利用者数が増えている状況である(「厚生労働省:地域包括ケアシステムに向けて:介護保険制度を取り巻く状況」より)。65歳以上の障害者についても、その利用は伸びていることが推測されるところである。 一方、障害者総合支援法の利用についても年々利用者数が伸びている。社会保障審議会障害者部会(第59回)「障害保健福祉施策の動向等」資料によると、実利用者数は平成25年4月から26年4月にかけて6.3%増加しており、なかでも身体障害者や知的障害者の利用伸び率が3〜4%台であるのに対し、精神障害者の利用伸び率は13.2%、である。 そうした状況にあるなか、障害者総合支援法の各サービス利用者に占める65歳以上の者の割合は、平成26年の国保連データによると、次頁のとおりである。 65歳以上の者の利用割合が高いものから順に、同行援護60.3%、重度訪問介護21.5%、施設入所支援19.6%、生活介護12.2%と続いている。   Aサービス利用料負担に関する状況 介護保険と障害者総合支援法によるサービス利用との大きな違いのひとつに、自己負担の状況がある。 65歳以上となった障害者について、介護保険サービス利用に移行した後、非課税世帯であっても利用料の応益負担が生じ、それが大きな経済的負担になっているとの意見が少なくない。 なお、障害福祉サービスに関する利用料の状況は以下のとおり。 ・障害福祉サービス利用者のうち、93.4%が無料でサービスを利用している(平成26年10月) ・給付費全体に対する利用者負担額の割合は、0.25%。(平成26年10月現在) ・所得区分毎の割合は、一般2 1.4%、一般1 5.2%、低所得 80.3%、生活保護 13.1% 計100.0% ※いずれも、障害福祉サービスの在り方等に関する論点整理のためのワーキンググループ第7回資料より引用 B障害者総合支援法と介護保険法の適用関係 65歳以上の障害者への対応として、介護保険法と総合支援法との関係においては、介護保険法(平成9年法律第123号)の規定および障害者総合支援法第7条により、介護保険法による介護給付等が優先されることとなっている。 この原則に関して、厚生労働省では、平成19年3月28日に厚生労働省社会・援護局障害保険福祉部企画課長・障害福祉課長連名通知により「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」を示し、下記の内容によりサービス利用の調整を図るよう、自治体に通知している。 [概要]自立支援給付と介護保険制度との適用関係等の基本的な考え方について 介護給付費等と介護保険制度との適用関係 ○介護保険サービス優先の捉え方 障害者が同様のサービスを希望する場合でも、その心身の状況やサービス利用を必要とする理由は多様であり、介護保険サービスを一律に優先させ、これにより必要な支援を受けることができるか否かを一概に判断することは困難であることから、障害福祉サービスの種類や利用者の状況に応じて当該サービスに相当する介護保険サービスを特定し、一律に当該介護保険サービスを優先的に利用するものとはしないこととする。 ○具体的な運用 以下のとおり、当該サービスの利用について介護保険法の規定による保険給付が受けられない場合には、その限りにおいて、介護給付費等を支給することが可能。 在宅の障害者で、申請に係る障害福祉サービスについて当該市町村において適当と認める支給量が、当該障害福祉サービスに相当する介護保険サービスに係る保険給付の居宅介護サービス費等区分支給限度基準額の制約から、介護保険のケアプラン上において介護保険サービスのみによって確保することができないものと認められる場合。 しかしながら、その運用に関して障害者の個々の実態に即したものとなっていない等の声も寄せられていることを踏まえ、厚生労働省は各市町村における具体的な運用等についての実態調査を実施し、その結果を踏まえた事務連絡(通知)を平成27年2月18日に発出し、障害者の個々の状況に応じた支給決定がなされるよう通知された。 当該「事務連絡」のポイントは、次のとおりである。    (厚生労働省「障害保健福祉関係主管課長会議資料/平成27年3月6日」より抜粋) @障害福祉サービス利用者の介護保険制度の円滑な利用に向け、65歳到達日等前の適切な時期から要介護認定等に係る申請の案内を行うこと。また、案内に際しては、介護保険法の規定による保険給付が優先されることが、あたかも介護保険のみの利用に制限されるという誤解を障害福祉サービス利用者に与えることのないよう、(中略)の場合については障害福祉サービスとの併給が可能な旨、利用者及び関係者へ適切に案内を行うこと。 A障害福祉サービスを上乗せして支給する場合に何らかの基準を設けている市町村もあるが、当該基準によって一律に判断するのではなく、申請者の利用意向を丁寧に聴取するなど、個々の実態を十分に把握した上で、介護保険サービスの支給量・内容では十分なサービスが受けられない場合には、障害福祉サービスを上乗せして支給すること。 B障害福祉サービス利用者が要介護認定等を受けた結果、介護保険サービスのみでは利用可能なサービス量が減少することも考えられるが、介護保険利用前に必要とされていたサービス量が、介護保険利用開始前後で大きく変化することは一般的には考えにくいことから、個々の実態に即した適切な運用を行うこと。 C障害福祉サービス利用者に介護保険サービスを利用するに当たっては、適切なサービスを受けられるよう、相談支援専門員がモニタリングを通じて介護保険制度に関する案内を行うことや、介護保険サービスの利用に際しては、本人に了解の上で、利用者の状態やサービス等利用計画に記載されている情報を、利用する指定居宅介護支援事業所等へ適切に引継ぐこと等、必要な案内や連携等行っていただくよう周知を行うこと。  (以下、略)   なお、厚生労働省が行った自立支援給付と介護保険制度との適用関係に関する自治体を対象とした抽出調査結果では、65歳以上の障害者のサービス利用状況について、介護保険と障害福祉サービスを併給利用している者の割合は35.7%、障害福祉サービスのみ利用している者の割合は64.3%であった旨が報告されている。   Cこれまでの提言等 65歳以上の障害者のサービス利用については平成22年1月7日の「障害者自立支援法違憲訴訟に係る基本合意」においても取り上げられている。 (「障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と国(厚生労働省)との基本合意文書」より抜粋) 三新法制定に当たっての論点 C介護保険優先原則(障害者自立支援法第7条)を廃止し、障害の特性を配慮した選択制等の導入をはかること。    また、障がい者制度改革推進会議総合福祉部会が平成23年8月30日に取りまとめた「骨格提言」にも取り上げられている。 (「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」より抜粋) 1-1法の理念・目的・範囲 【表題】介護保険との関係 【結論】 ・障害者総合福祉法は、障害者が等しく基本的人権を享有する個人として、障害の種別と程度に関わりなく日常生活及び社会生活において障害者のニーズに基づく必要な支援を保障するものであり、介護保険法とはおのずと法の目的や性格を異にするものである。この違いを踏まえ、それぞれが別個の法体系として制度設計されるべきである。 ・介護保険対象年齢なった後でも、従来から受けていた支援を原則として継続して受けることができるものとする。 3.今後の協議に向けた国の論点整理の状況 厚生労働省では、障害者の高齢化に対する今後の検討につなぐ論点整理を「障害福祉サービスの在り方等に関する論点整理のためのワーキンググループ」にて検討しており、4月16日に論点のとりまとめを行った。 その内容は以下のとおり。   【高齢の障害者に対する支援の在り方について】 ○障害福祉サービスの利用者が介護保険サービスへ移行する際の利用者負担について、どう考えるか。 <検討の視点(例)> ・低所得者の負担への配慮 ・一般の高齢者等との公平性 ○介護保険給付対象者の国庫負担基準額について、どう考えるか。 <検討の視点(例)> ・相当する介護保険の訪問系サービスとの関係 ・財政影響 ・国庫負担基準全体の在り方 ○介護保険サービス事業所において、65歳以降の障害者が円滑に適切な支援が受けられるよう にするため、どのような対応が考えられるか。 <検討の視点(例)> ・ケアの質の低下が生じないよう、介護保険サービス及び障害福祉サービスが適切に提供されるための両制度の適切な利用を橋渡しする仕組み ○65歳前までに自立支援給付を受けてこなかった者が65歳以降に自立支援給付を受けることについてどう考えるか。 <検討の視点(例)> ・介護保険にはない障害福祉独自サービス(同行援護、行動援護等)の取扱い ・65歳前より障害を有していたが、65歳まで手帳等をとらずにいた障害者や、65歳以降に障害を有するに至った者の取扱い ○障害者総合支援法第7条における介護保険優先原則について、どう考えるか。 <検討の視点(例)> ・障害を持って高齢期に至った高齢障害者の特性 ・ノーマライゼーションや一般の高齢者等との公平性 ・社会保険制度である介護保険制度と公費負担による障害福祉制度の関係 ○心身機能が低下した高齢障害者について、障害福祉サービス事業所で十分なケアが行えなくなっていることについて、どのような対応が考えられるか。 <検討の視点(例)> ・予防の観点も含めた早期の心身機能の低下に対応するケアマネジメント ・障害福祉サービス事業所における、介護技術・知識の向上、マンパワーの充足、医療との連携による医療的ケアの充実、バリアフリー対応等の設備上の課題への対応 ・心身機能の低下した高齢障害者に対する障害者支援施設等やグループホームの位置づけ ・介護保険事業者等との連携や地域生活支援拠点の活用や在り方 ・グループホームや障害者支援施設等の入所者等に対する日中支援活動の在り方 ○いわゆる「親亡き後」と言われるような、支援者の高齢化や死亡などの支援機能の喪失後もできるだけ地域において安心して日常生活を送るために、どのような対応が考えられるか。 <検討の視点(例)> ・支援機能の喪失前からの「親亡き後」の準備 ・支援者の支援機能の喪失後を見据えた、中長期的なケアマネジメント ・支援者の支援機能の喪失後の自立のため、障害者自身や親をはじめとする支援者がそれぞれ担うべき役割とそれを支援する体制の構築   これらの論点について、今後、社会保障審議会障害者部会で具体的な見直しの議論が本格的に進んでいく予定である。 時期を同じくして、本会として障害者の高齢化に関する課題について、特に当事者やその家族等の観点から必要な見直し課題を整理したので、次章において紹介する。   U障害者の高齢化に関する課題とりまとめ意見 1.所得保障に関すること 【意見T】老後のための貯蓄をもつ者が少ないことから、加齢により増大する様々な経済的負担に耐えうる所得保障となる制度設計をすべき。 【意見U】障害福祉サービス利用から介護保険サービス利用に移行する際の費用負担が増加しないよう特例措置等を講じるべき。 (1)共通する課題 @ 収入面について〜年金、貯蓄、工賃等〜 ・主たる収入源が障害基礎年金のみとなる場合は、これまでの暮らしの質を保つのに不充分。 ・加齢に伴って障害年金の認定は厳しくなっている実態があり、障害者の生活実態に見合っていない。 ・働いて一定の収入が生じる場合は、これまでの年金が支給停止となる場合もある。 ・働く機会が少なく、老後のための貯蓄を持たない人が多い。 ・年々、障害者年金や親の老齢年金が減額されており、経済面での生活が厳しい。 ・障害基礎年金は、親亡き後、生活のすべてを自分で賄える水準ではない。 A支出面について ・医療頻度の増加に伴う医療費負担の増大。 ・高齢化に伴い、貯蓄や年金等の金銭管理が困難になる場合があり、管理に要する費用が新たに発生(一定の財産がある場合の、財産保全と適切な運用のための成年後見制度利用に要する費用発生等)。 ・外出、通院に伴うマンパワーや移動手段の確保といったソフト面にかかる費用の増加。 ・住宅改修等のハード面整備に伴う費用の増加。 ・特別な情報機器の購入費や修理費を要するため、健常高齢者より必要経費が多い。 ・65歳から介護保険サービス費用の1割負担および(支給限度額超過分等の)自己負担の発生に伴う経済的負担の増大。 ・65歳から介護保険料が年金から天引きされる場合の、経済的負担の増大。 ・親亡き後や家族の独立に伴い、単身での生活費が増大。 Bその他 ・障害認定がされておらず、手帳を持たない者は(高齢化すると)生活継続の目途が立たなくなる例がある。 ・親亡き後の相続の不利益や日常の契約行為の不利益が生じることがある。 ・65歳を過ぎて障害者となった場合、初診日が65歳を過ぎていると障害基礎年金が受給できない。 【注】初診日は65歳前でなければならないが、障害認定日は65歳過ぎても可。なお、初診日において、厚生年金加入中であれば、障害厚生年金の対象となる。原則、65歳になると事後重症請求(障害認定日に、 障害の程度が障害等級に該当せず、その後、その傷病が悪化して障害状態になった為、障害年金を請求する行為)はできない。 (2)個別の課題 @所得保障に関する課題について ・ろうあ者は読み書きなどの教育訓練を受ける機会の保障が無い、または少なかったために、(高齢になっても)コミュニケーションがとれず、就労の機会も少なく、貯蓄も少ない。[全日本ろうあ連盟] ・軽度・中度難聴者は身体障害者手帳の交付が無いこともあり、高齢になっても障害年金を支給されず、生活が不安。[全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・加齢に伴う作業能率の低下により、働く場での工賃(賃金)が低下。[全国肢体不自由児者父母の会連合会、全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会、日本自閉症協会] ・親亡き後は貯蓄や収入が期待できず、生活が苦しくなる。場合によっては現在の住まいでの継続生活が困難になる。[全国肢体不自由児者父母の会連合会、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、日本筋ジストロフィー協会] ・施設入所支援利用者について所得の状況に応じて補足給付がなされているが、グループホームでは1万円が上限の家賃補助(所得に応じて)しかなく、家賃や自己負担に耐えられない。[全国手をつなぐ育成会連合会、日本自閉症協会] ・障害の状態が安定しない場合、仕事を持つことが難しかったため、貯蓄が少ない。[日本リウマチ友の会] ・行動障害のある方で入院治療の必要な方の場合、病院の基準看護では対応できず、付添看護人を依頼したり、特別室(個室)の手配等に多額の費用負担が生じる。[日本自閉症協会] ・65歳から介護保険サービス費用の1割負担および(支給限度額超過分等の)自己負担が発生することに対し不安。[全国肢体不自由児者父母の会連合会] ・先天性心疾患患者は、先天性疾患であるために障害基礎年金しか受給できない。[全国心臓病の子どもを守る会] ・先天性心疾患患者は、就職はできても、病気に対する理解を得にくいために就労継続が困難。[全国心臓病の子どもを守る会] Aその他、財産管理等について ・親やきょうだい、配偶者と同居していたが、それらの方の亡き後は、計画性のある金銭管理ができない方もいる。[全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・軽度の知的障害者について、消費者金融や友人との金銭トラブルに巻き込まれ、加害者側になってしまったり、詐欺等の被害者になることもある。また、そのことを契機に親族関係を複雑にしてしまうこともある。[全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会] 2.住まいに関すること  【意見T】高齢化に併せての居住環境の整備を想定した、障害者の住まいの住宅改修補助とその相談支援制度等を大幅に拡充すべき。 【意見U】高齢障害者が選択し、安心して生活できる多様な住まいの場の整備・確保と、それらの場で必要な支援実施が可能な福祉人材確保を進めるべき。 (1)共通する課題 @新たな住まいの確保や入居時の課題について ・高齢化してからの入所施設、グループホーム、公営住宅といった転居先の絶対数が不足。 ・高齢になると火気管理が困難な面が生じ、緊急時の対応が難しい。 ・高齢化しての在宅生活の継続のためには、相談支援体制の整備が必要。 ・障害者支援施設も不足している。 ア.一般住居について ・高齢化に伴い、トイレ、風呂、階段、出入口、手すり、ベッドなどが使いにくくなり、転倒の心配が常にあり、部屋から部屋への移動が難しく、入浴回数も減らさざるをえない。さらに、医療的ケアが必要になると施設や病院に移らざるを得なくなる。 ・新築の場合、住宅改造補助制度が使えない。また、住宅改修は一回しか補助が出ないため、経済的に無理があり、高齢により進行する障害者の住まいとしては不充分。 ・いわゆる老障介護となると、トイレ、風呂場、階段、出入り口、手すり、居室などの更なるリフォームの必要性があり、費用を要するが経済的に無理がある。また、もとより高齢になり生活上の身体機能が低下することを想定した安全確保がなされた住まいとなっていない。 ・入所施設から親元に帰省したくても、その際のヘルパー利用ができないため、実施できない。 イ.グループホームについて ・消防法や建築基準法の適用による大幅な住宅改修費を要するために、一般住戸等のグループホームへの転用が進んでいない。 ・住まいに関する費用負担の軽減策が必要。 ・グループホームは絶対数が少ないうえ、夜間体制を含め職員体制が不十分なため入居しにくい(高齢化に伴っての一層の日中支援も必要)。 ウ.公営住宅や民間賃貸住宅等について ・一般のマンションやアパートの賃貸住宅はバリアフリー仕様となっていない等のことから、さらに借りにくくなる。 ・利用手続きが一人ではできにくいために、入居できない。 ・高齢であることを理由に、入居契約を断られることがある。 ・住まいの選択肢として、公営住宅等に住み、高齢化に伴って必要な介護や訪問医療サービス等が受けられるような機会の創出をすべき。 ・障害者が賃貸住宅を借りやすくするための、家主・管理会社向けの少額短期保険の一層の整備促進が必要。 Aその他 ・地方では、近隣に小売店が無くなった、医療機関が遠くなったなど、住まいの環境的要素が大きく変わり、暮らしにくくなる面が高まっている。 (2) 個別の課題 @住まい確保と、その利用手続き等について ・高齢聴覚障害者・高齢視覚障害者のための老人福祉施設が不足している。[全日本ろうあ連盟、日本盲人会連合] ・高齢聴覚障害者の場合、筆談をするための読み書きができない場合や、相手が手話をできないからとの理由等で賃貸住宅、グループホーム、高齢者住宅等の契約を断られることがある。[全日本ろうあ連盟] ・自閉症者は親亡き後、生活破たんにより入院せざるをえず、しかも長期入院が困難で病院を転々としているようなケースがある。[日本自閉症協会] ・軽度障害者が生活できる公営賃貸住宅に類するような、柔軟利用でき、安心できる住まいが必要。[全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会] ・シェアハウスにおいては、年金や生活保護費管理など、貧困ビジネスの対象となる場合が多い。[日本知的障害者福祉協会] ・症状が安定しないため手帳取得ができず、住宅改修の制度が利用できない。[日本リウマチ友の会] A住まいに関する環境・支援体制・設備について ・グループホームは、専門的対応が必須な強度行動障害のある自閉症者に対応しうる職員配置ができていない。[日本自閉症協会] ・特別養護老人ホームが高齢の視覚障害者が居住できる仕様になっていない。[日本盲人会連合] ・介護老人施設等では発達障害者への対応体制ができておらず、また、高齢化した発達障害者については、安住の地確保のため生活環境をなるべく変えないことが望ましい点から、障害者支援施設に「高齢化対応加算」のような制度を設け、介護保険施設への移行をしなくても済む仕組みとすべき。[日本自閉症協会] ・筋ジストロフィーは進行性のため、住まいのバリアフリー化を進める必要があり、天井レールによるリフト設置家庭も増えている。トイレや浴槽も通常の数倍の大きさへの改修が必要となる。[日本筋ジストロフィー協会] ・在宅高齢者で単身向けの「緊急通報システム」があるが、高齢聴覚障害者には不向き。[全日本ろうあ連盟] ・電気、ガスによる火災の危険性や、水漏れが目視できず、また、加齢に伴う認知機能の低下により設備の老朽化に気づきにくくなる。[日本盲人会連合] ・心臓病者は加齢とともに医療との関わりが濃厚になり手厚い介護と専門的知識が必要なため、一般的なグループホーム利用は困難。[全国心臓病の子どもを守る会] Bその他 ・加齢に伴う身体機能の低下が著しく、来客に気づきにくくなるなどもあって対人関係が希薄になり、孤立し引きこもりがちの生活になる。[全日本ろうあ連盟、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・サービス時間や内容が障害者総合支援法より下回る現状では、介護保険優先の制度は筋ジストロフィー患者にとっては適用不可能。[日本筋ジストロフィー協会] 3.地域社会との関わり(社会参加)に関すること 【意見T】どの地域でも移動支援やコミュニケーション支援が十分に利用できる等、地域生活に必要なサービスの拡充を図るべき。 【意見U】地域ぐるみで、災害への備えをはじめ、地域とのつながりが高まるような支えあいと、身近な相談支援が可能な体制を構築すべき。 (1)共通する課題 @地域の支援体制や必要なサービス等について ・地域で高齢になって心配事が出てきた時に頼れる相談機関が少ない。 ・今まで以上に衣類の着脱に時間がかかり、身支度を整える時間を要し外出が億劫になったり、身近なサポート機関や相談支援機関の情報を持っていないため、外出をあきらめてしまう。こうした日常的支援と情報提供体制の拡充を。 ・コミュニケーション支援が地域に不足している。 ・高齢化に伴い、災害発生時の避難方法や必要な連絡受理など、災害時の支援についてさらに不安要素が高くなる。 ・親自身の加齢に伴い、老障介護をせざるを得なくなり、外で働くことができなくなる。 ・相談支援体制を軸とした緩やかにいざという時の危機介入できる体制と、地域定着支援等の利用による見守り支援の体制を整備すべき。 ・孤独死や虐待防止等も目的とし、支援者が訪問して必要な見守りや支援につなげるアウトリーチ専門支援サービスを整備すべき。 A地域交流、社会参加について ・公民館活動などへの参加について、一人での移動が困難なことから敬遠してしまう。 ・配偶者、親、きょうだいの不在により地域社会との接点を失いがちになり、地域交流が少なくなる。 ・近隣との交流を深めるため、民生委員・児童委員などの支援者の協力と育成が必要。 ・65歳で利用するサービスが変わることにより、在宅生活継続が困難となり、慣れ親しんだ地域から離れることになる。 Bその他〜災害対応 ・地域住民が障害のある高齢の方が共に防災等の訓練をし、緊急時の対応を確認しあうことが重要。 (2) 個別の課題 @地域との関わりに関する状況変化やその対応のあり方等について ・自閉症の子どもが外出するにあたって、それまでなされていた親のサポートが高齢化に伴ってできなくなり、人間関係の構築等行動障害に対する支援ができなくなる。[日本自閉症協会] ・自家用車を所有していた障害者本人または親の高齢化に伴い、車の運転や維持管理ができなくなり、外出が難しくなる。[全国肢体不自由児者父母の会連合会、日本自閉症協会] ・老後に生きがいのある生活を送るための、(移動支援等)日中活動支援のさらなる充実。[全国手をつなぐ育成会連合会] ・行動援護や同行援護、重度訪問介護の移動介護加算が使えなくなり、社会との関わりが薄れる。[全国肢体不自由児者父母の会連合会] ・難聴者が高齢化するにつれて、来客があることがわからず、電話の応対もできず、災害の気づきも遅く、近隣との対人関係も希薄化する傾向が高まる。日常生活用具給付内容や交付要件の拡充が必要。[全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・高齢化に伴い、社会参加等のための移動支援などの費用補助が必要。[日本身体障害者団体連合会] 4.利用する福祉サービスに関すること(介護保険制度と障害福祉施策サービスとの関係から生じる課題等を含む)  【意見T】65歳になっても一律に介護保険制度優先とせず、本人の意向に沿って障害者総合支援法サービス利用と選択できる仕組みとすべき。 【意見U】介護保険サービス利用に移行する際にも、従来利用してきたサービス内容の制限や量の低減が生じないよう、継続性を保障すべき。 【意見V】高齢障害者の特性や状態に配慮した情報提供体制の整備や、利用サービスの拡充、日常的な支援のための体制づくりを講じるべき。 【意見W】福祉人材不足は特に深刻であり、支援を要する者の生活に甚大な影響を及ぼしていることから、高齢障害者の特性や状態に応じ支援できる支援者を含め、その確保と養成に特段の政策を講じるべき。 (1)共通する課題 @介護保険制度と障害福祉サービスとの関係について ・総合支援法によるサービス利用の継続性の保障のため、介護保険サービスから障害福祉サービスの移行に際しては、十分なサービスが受けられるよう、本人の意向等により選択できるようにすべき(介護保険優先原則の見直し。特に、厚生労働省の通知等により、市町村に「適切な運用をお願い」するとされている現状ではなく、今回の「法」改正によって、選択制の実現がなされるべき)。 ・65歳になり、介護保険優先適用となった場合、要介護認定が低く判定される等によってサービス支給量が後退(不足)する。市町村によっては、介護保険優先適用となった場合、障害者総合支援法にはあった上乗せ部分を認めないとされる。 ・高齢化に伴い、在宅生活ではより多くの福祉サービスが必要となるが、ヘルパーの不足や時間数の上限があり、十分に受けられないことが多い。 ・65歳から介護保険優先となることで、これまで無料で受けられていたサービスが1割負担となる[再掲]。 ・65歳で多くのサービスが打ち切られる実態があり、サービスの行き届いている他地域に移住せざるをえない状況が生じる。 ・日常生活用具が老朽化で使用不能になった場合、介護保険の福祉用具貸与(レンタル料等)で点数が引かれることになると、他の介護に充てられる点数が減り、介護時間が少なくなるなどしわ寄せが生じる。 ・介護保険ではサービスの限界があり、障害に応じての状況説明・代筆・代読等がしてもらえない。 ・65歳以上で初めてサービスを利用したい場合、介護保険優先原則の対象になった人が、新たに障害福祉サービスの利用を希望しても認めない市町村がある。自治体への周知徹底が必要。 ・障害者支援施設利用者が介護保険施設に移行する際、3か月以内の移行を要件に要介護認定が受けられるが、待機問題によりスムーズな移行が困難であり、要件を柔軟なものに見直すべき。 ・障害者支援施設利用者が高齢化に伴い介護を要するようになると、現状では介護老人施設に移行さぜるをえない状況があるが、支援の継続性が確保されない。 A高齢化に伴うサービス・支援の拡充について ・地域社会における在宅サービス、居住サービス、その他の地域社会支援サービスに情報アクセスできる環境となっていない。 ・障害者の加齢による身体介護面の増や、2次障害の発生への対応が必要。 ・障害のある認知症の人への対応方法を広めていくことが必要。 ・サービスが十分でないところと、十分なところとの地域格差が発生すると、よりサービスの行き届いている地域へ移住することを余儀なくされる。 ・サービスの不足によって日常生活上の我慢を強いられ、働くことや生活する意欲、生きがいの喪失につながる。 ・(親亡き後の場合を含む)高齢の障害者が、24時間いつでも緊急時に利用できるショートステイ施設が不足している。 ・必要に応じて、地域の中でゴミ出しや電球交換、居室の整理・整頓、買い物代行等の日常的な支援体制を構築する必要がある。 ・障害者支援施設利用の場合、障害の状況によっては毎日通院が必要となる場合があり、看護師加配等の体制強化が必要となる。 ・認知症予防事業や介護予防事業には、障害がある高齢者の受け入れが考えられておらず、特別な配慮が無いと参加しにくい。 ・グループホームは夜間体制を含め職員体制が不十分なため入居しにくいうえ、高齢化に伴って一層の日中支援(見守り支援を含む)や医療的ケアも必要となってくる。 B移動に関する支援について ・高齢になっても社会参加を可能とする移動支援の充実化が必要(親が高齢化することからも生じている課題)。 ・高齢化に伴い、買い物のために移動支援が必要となる場合が増える。 ・通所サービスについて、親の高齢化に伴い、近隣のバス停までの送迎さえ困難となる事例があるため、移動支援の拡充等対応方法の確立が必要。 ・自治体のタクシー券補助やガソリン代の助成は、近年の財政難から縮小傾向であり、移動手段への援助が必要。 C相談支援体制の充実と包括的な調整等機能について ・平成27年4月より市町村が支給決定を行うにあたり、すべての場合でサービス等利用計画案等の提出が求められることとなったが、それを可能とする相談支援体制等が不十分であり、整備促進されるべき。 ・障害児者へのきめ細かな支援提供のためには、心身の状態等に合せた適切かつ柔軟なモニタリング期間の設定が重要であり、特に障害者の高齢化への対応において、相談支援専門員の協力のもと、それが可能となる仕組みを推進すべき。 ・相談支援専門員とケアマネジャーとの調整機能の創設・整備が必要。 ・必要に応じて、高齢障害者のための障害福祉サービスに介護保険サービスを組み合わせたサービス利用計画が立案できる施策・体制整備を図るべき。その際、医療的ケアを要する者については、医療にも配慮した包括的な支援計画とサービスが実現されるようにすべき。 ・対応が困難な相談等について基幹相談支援事業所の拡充を通し、市町村ごとの充実した体制の構築を促す。 ・福祉面だけでなく医療面での様々な情報をも一元的に把握・管理して、適切な報告、連絡、相談が行えるネットワーク体制の確立が必要(障害福祉計画に基づく地域生活支援拠点等整備推進と一体化した地域包括ケア体制の確立をめざす)。 D福祉人材確保とその養成について ・夜間支援のある入所施設やグループホーム職員のなり手確保が確実に困難になっており、居住支援サービスの提供そのものが不可能になる危機にある。 ・ケアマネジャーの講習に、高齢障害者の特性に関するカリキュラムを加え、障害者理解を一層深める機会を作る必要がある(視覚・聴覚障害、発達障害やてんかん等幅広い特性を含む)。 (2)個別の課題 @必要なサービスの拡充等について ・障害特性を理解して行動障害に対応できるヘルパーが少ない。[日本自閉症協会] ・専門的対応が必須である強度行動障害のある自閉症者について、グループホームにおいて福祉の知識経験のある職員を配置することすらままならない状況にある。[日本自閉症協会] ・居宅介護における見守りについては認められないケースが多く、認められている場合でも報酬単価が低いため、そのサービスを提供する事業者が少ない。[全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会] ・高齢聴覚障害者が利用できる介護保険サービスはほぼ皆無に等しい。[全日本ろうあ連盟] ・(慢性)関節リウマチは、身体障害者手帳をもっていないと関係サービスが受けられない。[日本リウマチ友の会] ・日常生活用具給付は身体障害者手帳2級以上所持者が主であり、難聴者の多くは対象外となっている点の改善を。[全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・来客のあることがわからず、また、電話が聞こえない、火災報知器音が聞こえないなどの状況に対応可能な、自治体における日常生活用具の給付拡大が必要。[全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・難聴者であっても世界保健機構の定める区分(国際障害分類)に従って必要なサービス給付を受けられるようにすることが必要。[全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・センサー感知の簡易な自動ドア設置を介護保険対象福祉用具とすることが必要。また、室内照明の点灯消灯の判別可能な設備対応が必要。[日本盲人会連合] ・高齢化に伴い、障害の重度化や痛みが生じたりして移動が困難になるため、対応しうる体制づくりが必要。[日本身体障害者団体連合会] ・家族に代わって、いつ、どこでも、身の回りの支援が可能となるサービス体制の充実。[日本身体障害者団体連合] ・知的障害者は介護保険サービスの利用が困難(要介護3以上になるまで)なため、グループホームと生活介護で対応せざるを得ない。[日本知的障害者福祉協会] ・65歳以上の知的障害者が初めて入所施設を利用する際、介護保険制度優先もあり老人福祉施設が圧倒的な実態にあるが、障害者支援施設を含め、自治体における適切な判断がなされることが必要。[全国手をつなぐ育成会連合会] ・心臓病者は見た目にはわからないハンディがあり、身体的疲労の蓄積も大きく、状態が日々変化することもあり、移動や家事などの福祉サービスが受けづらい。また、要介護の親がいる場合、心臓病者の介護能力の程度が理解されづらく、日常的援助が受けられない。[全国心臓病の子どもを守る会] ・重症の心臓病者は移動に伴う困難があるなか、医療機関が限られている地域においては通院の困難さは大きな問題。[全国心臓病の子どもを守る会] ・居宅介護等において、在宅酸素利用の心臓病患者には医療的ケアである酸素管理を行えるようにすることも課題。[全国心臓病の子どもを守る会] Aその他 ・介護予防教室や各種介護サービスに関する講習会への参加しやすい環境整備が必要。[全日本ろうあ連盟] 5.本人や家族の状況の変化に関すること(親の加齢や親亡き後に生じる課題も含む)  【意見T】家族状況の変化により日常的支援やサービスを要する状態が発生した際、速やかに身近で必要な相談が可能となる体制を構築すべき。 【意見U】身体等機能の低下速度が早いと考えられる場合もあり、早期から加齢によるリスクを考慮したサービス利用が可能となるようにすべき。 (1)共通する課題 @日常的なサポートの確保について ・親亡き後、必要な介護や日常的なサポート等で頼れるきょうだいや親族、配偶者、子ども等がいない、もしくは少ない。 ・親や家族、配偶者の加齢により、必要な生活上のコーディネートが得られなくなり、日常生活が困難になる。 ・今後、同居家族の一層の高齢化により、生活基盤となる暮らしの場が不安定になる傾向が顕在化する。 A本人の状況変化に伴う事項について ・高齢化が進むにつれて生活環境の変化が生じてくるため、ヘルパー派遣時間や支援内容など、そうした変化に合わせた対応が必要。 ・グループホームで生活している場合、親等の高齢化により、自宅に帰宅する(できる)回数が減少する。 ・高齢化による医療の必要性の高まりについて、在宅等居住環境と日中系利用サービス等との、通院に関する情報共有や服薬管理、また、食生活管理などが障害特性ゆえにさらに煩雑になることも考えられ、対応を講じていく必要がある。 (2)個別の課題 @本人の変化や、支援が必要な状況について ・脊髄損傷者は、健常者との比較で、骨粗鬆症、血栓塞栓症、心血管系疾患、糖尿病などの老化リスクが高い。また、一般的な加齢によるコラーゲンの減少や皮膚の弾力喪失が、脊髄損傷者の場合には褥瘡のリスクに結びつく。[全国脊髄損傷者連合会] ・知的障害者の高齢化を考える際には65歳を目安とせず、加齢による支援が必要となる状況が50歳くらいから必要が高まる方が多く存在することへの理解と対応体制が必要。[全国手をつなぐ育成会連合会、日本知的障害者福祉協会] ・65歳以上の知的障害者の多くに「年を取った」との認知がしにくい点にも支援が必要。[日本知的障害者福祉協会] ・50才以下での「早期高齢化」があり、(各種サービス利用要件等に関する特別な)判断基準が必要。[日本知的障害者福祉協会] ・先天性心疾患患者が修復手術後も40〜50歳になると加齢に伴う心機能の低下等により病気が起こることが多い。[全国心臓病の子どもを守る会] ・加齢により本来的な支援の困難さに加え、感覚の鋭敏さや衝動性、こだわりが増える、新たな行動障害が出るなどして、支援の困難さが増す場合が多い。[日本自閉症協会] ・自閉症者について、多量の向精神薬を常時服用している人が多いこともあり身体的な老化も急速で、介護支援や車いすでの生活が可能なように環境面での対策が必要だが、制度上の十分な保障がない。[日本自閉症協会] ・発達障害の人についての、介護老人施設等での支援体制が立ち遅れている。[日本自閉症協会] ・関節リウマチの場合、持病の悪化、進行により、障害が重度化した際の介護者の不安や高額な薬価といった経済的な不安がある。介護保険には付添サービスがなく、また、家族がいると利用できないサービスもある。[日本リウマチ友の会] ・視覚障害者特有の感覚が鈍くなる(つえ、聴覚、体幹等)。しかも、加齢による聞こえにくさも生じると、周りとのコミュニケーションが難しくなる。[日本盲人会連合] ・視覚障害者の、加齢に伴う記憶力低下等により、身辺な必要物の探索能力が低下する。[日本盲人会連合] ・知的障害に認知症が加わると、その変化に他者が気づくときには症状が進行している場合が多い。また、気づきから診断までに時間がかかる(甲状腺機能障害やうつ病等と類似しているため)。[全国手をつなぐ育成会連合会] ・リウマチ患者の特性(痛み、日内変動、薬使用による動ける状態等)を反映した障害程度認定(基準)とはなっていない。[日本リウマチ友の会] ・身体障害者手帳所持のみの障害者も成年後見制度の利用を可能にすべき。[全国肢体不自由児者父母の会連合会] ・高齢聴覚障害者の特性について知られていない。(たとえば、未就学のため、手話・文字・口話等コミュニケーション手段を身に付けていない者が多い等)[全日本ろうあ連盟] ・聴覚障害者の認知症の対応等について、関係機関や施設であっても適切な対応がなされていない。[全日本ろうあ連盟] A親の加齢や親亡き後に生じる課題について ・最重度の障害者が、親の加齢により介護人の不在が生じ、あらたに人を雇うなどして介護費用が発生する。[日本身体障害者団体連合、日本筋ジストロフィー協会] ・親亡き後、孤独死を防ぐ見守り体制の確立が必要。[全国手をつなぐ育成会連合会] ・生活の支援者であった親が亡くなった後、きょうだいに面倒を見てもらえる障害者は少ない。[全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会] ・聴覚障害者養護老人ホームへの入所の際、親の他には、主たる親族等による身元引受人のなり手がいない。[全日本ろうあ連盟] ・入院時の身元引受人に現在就業中の者を求める病院があり、また、親族(甥や姪)であっても関わりが薄いと身元引受人になれない。[全日本ろうあ連盟] ・視覚障害者の場合、これまで親が行っていた読み書きを求められる場面に即座対応ができなくなる。[日本盲人会連合] 6.その他 【意見T】緊急時に即座に対応できる連絡体制整備や公的支援を充実すべき。 【意見U】高齢の障害者の理解を広げるための社会啓発により、安心・安全で生きがいの持てる生活を継続できる社会環境整備を図るべき。 【意見V】高齢の障害者の福祉・医療課題を一元的に把握し、適切な連絡や相談が行える地域の包括的なネットワーク体制を確立すべき。 (1)共通する課題 @制度やサービスの広報・周知について ・どのような福祉制度やサービスがあるのか知らないために、社会資源を十分に利用できていない。行政による制度やサービスの広報が足りない。 A個別支援・相談支援等の体制について ・緊急時の公的な支援の不足。 ・障害者支援施設の入所者は、加齢により通院回数が増え、それに対応できる看護師を中心とした職員の配置がさらに必要となる。 B環境整備について ・社会がバリアフリーからユニバーサルデザイン化し、トイレ等の使用目的が誰でも使えるように変化したため、不自由さが生じている面がある。 ・障害者権利条約や障害者差別解消法等の理念に沿い、サービスを受けずともいつまでも元気に生きがいの持てる生活を継続できる環境整備が必要。 C医療面について ・病識がなく重篤になってから発見される場合があり、治療後の予後の自己対応ができない場合も多い。 ・通院時の情報確認や適切な服薬管理が煩雑になる(関係する支援が受けられない)。 ・認知症になった際、周囲とのコミュニケーションが図りにくい障害の場合は初期発見が難しく、中重度の状態になってからの気づきが多い。 (2)個別の課題 @必要なサービスのあり方等について ・電化製品など視覚障害者(特に中途の障害)の人には使いにくいものが多く、さらに高齢化の観点から、使いやすい機器開発が望まれる。[日本盲人会連合] ・何らかの理由で日常生活上身動きが取れなくなったような緊急時に、直通の電話連絡ができるホットラインを設けるべき。[日本盲人会連合] ・パーソナルアシスタンスなどの個別支援体制が必要。[日本自閉症協会] ・聴覚障害者に対するケアができる施設が少ない。[全日本ろうあ連盟] ・金融機関は単身の視覚障害者に対して簡便な利用の仕組みを作ることが必要。[日本盲人会連合] ・入院する時の身元引受人の要件が現就業者としている病院があるが、高齢家族の多くは年金生活者であり、身元引受人になれない。[全日本ろうあ連盟] A 障害の理解促進や支援体制づくり等について ・難聴は外見からは普通の人と変わらないが、生活の質の損失がとても大きく孤立した状態になりやすい。[全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・高齢化に伴い難聴になった場合にあっては、補聴器使用に関する適正な知識等が伝えられていない場合が多い。[全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・(補聴器使用以外にも)口話法等といったコミュニケーションの技術を学べる機会が設けられるべき。[全日本難聴者・中途失聴者団体連合会] ・発達障害者も教育や支援の対象となっているが、実際の運用ではサービスや支援を受けられない例も多い。[日本自閉症協会] ・本人をとりまく人(家族や成年後見人等、その他身近な人たち)や関係機関・事業者等のチームで支える仕組みの充実が必要。[全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会] ・聴覚障害者自身が認知症についての知識が不十分であったり、介護サービスの利用方法を知らないために必要なサービスを受けられずにいることが多い。情報発信の工夫が必要。[全日本ろうあ連盟] ・高齢知的障害者の場合、認知症と高齢になってからのてんかんとは相関関係が高く、対策が必要。[全国手をつなぐ育成会連合会] ・気管切開をしている障害児者については、入院する場合、親等の介助者がついていなければならないが、つきそいができないため、慣れた介助者がつきそうことができる仕組みとすべき。[日本筋ジストロフィー協会] B医療面について ・高齢者のてんかんについて、薬の副作用も含め、転倒のリスクが高まることへの対応が必要。[全国手をつなぐ育成会連合会] ・高額薬価等、医療費の負担が重く、必要な人が使えないことへの対応が必要。[日本リウマチ友の会] ・成人先天性疾患患者を診ることができる専門医が少なく、専門医療機関も限られているため、遠隔地への通院医療となっていることへの対応が必要[全国心臓病の子どもを守る会] ・てんかんの高齢発症の場合は認知症と混同され、不適切な薬物治療が増加していることへの対応が必要。[日本てんかん協会] ・てんかんのある人の独居の場合、訪問医療や看護、ヘルパー等のネットワーク、また、風呂場や転倒、窒息のリスクが高いことから民間救急搬送システム等のバックアップ体制づくりが必要。[日本てんかん協会] Cその他 ・知的障害者にとって、生きがいを感じる活動は高齢になってから急につくれるものではなく、また、若い時期から機能低下が始まるため、若いころから見通しを立て、必要な環境や支援体制を講じていくことが必要。[全国手をつなぐ育成会連合会] ・高齢期になり初めててんかんや精神疾患に罹患した人の薬の副作用として、転倒のリスクが高まる。[全国手をつなぐ育成会連合会] 全国社会福祉協議会 障害関係団体連絡協議会 障害者の高齢化に関する課題検討委員会 委員名簿 平成27年4月現在 役職  氏名(敬称略)  団体名 委員長  石橋 吉章  全国肢体不自由児者父母の会連合会 副会長 委員  小川 正明  全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会 副会長 委員  芝崎 久美子  全国心臓病の子どもを守る会 副会長 委員  大濱 眞  全国脊髄損傷者連合会 副代表理事 委員  田中 正博  全国手をつなぐ育成会連合会 統括 委員  濱崎 久美子  全国盲ろう難聴児施設協議会 事務局長 委員  川場 充(代理 大石 忠) 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 副理事長(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 高年部相談役) 委員  宮本 一郎  全日本ろうあ連盟 理事 委員 矢澤 健司  日本筋ジストロフィー協会 副理事長 委員  石井  啓  日本自閉症協会 政策委員会作業委員会 委員 委員  森 祐司  日本身体障害者団体連合会 常務理事/事務局長 委員  菊地 達美  日本知的障害者福祉協会 副会長 委員  鈴木 孝幸  日本盲人会連合 副会長 委員  長谷川 三枝子  日本リウマチ友の会 会長 〔委員会開催経緯と協議内容〕 第1回 平成26年9月30日 課題検討委員会の進め方について 第2回 平成26年11月20日 各委員からのレポート発表 [ヒアリング団体] 全日本ろうあ連盟、全国肢体不自由児者父母の会連合会、全国脊髄損傷者連合会 第3回 平成26年12月17日 各委員からのレポート発表 [ヒアリング団体] 全国手をつなぐ育成会連合会、全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会、日本リウマチ友の会、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 第4回 平成27年2月16日 各委員からのレポート発表 [ヒアリング団体] 日本筋ジストロフィー協会、日本自閉症協会、日本身体障害者団体連合会、日本盲人会連合 第5回 平成27年3月16日 各委員からのレポート発表、検討報告とりまとめについて [ヒアリング団体] 日本知的障害者福祉協会、全国心臓病の子どもを守る会、日本てんかん協会 第6回 平成27年4月28日 検討報告とりまとめ 奥付 障害関係団体連絡協議会 障害者の高齢化に関する課題検討報告 平成27年5月 〒100-8980 東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビル 社会福祉法人 全国社会福祉協議会 高年・障害福祉部内 TEL.03-3581-6502  FAX.03-3581-2428